習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

フラワー劇場『箱庭の王様』

2019-04-28 21:20:47 | 演劇

1時間の中編作品。平日の夜の回だけで8時からの上演だから(マチネーの3時もあったけど)コンパクトな尺を心掛けたのかもしれない。だけど、作品の内容と上演時間がとてもよくマッチしていてよかった。あと10分長かったならバランスが崩れたはずだ。もちろん30分長ければ内容を変えなくてはならない。この小さなお話にはこの長さが適切なのだと思う。

前半にはちゃんと遊びも盛り込んでそれでもこの長さに収めた。最初に登場した男女は何者なのか。さらにはここに集う4人の男女は何者なのか。死んでしまった女がここではふらふらしてみんなと普通に会話をしている。彼女がタイトルの「箱庭の王様」なのだということはすぐにわかる。彼女に助けられた4人がここに住まうことも、さらには彼女を訪ねてやってきた男との掛け合いもすべて予定調和で、なぞは簡単に解ける仕組みになっているから、安心して見てればいい。彼女の抱える想いがどこにあり、それを受け止める4人や訪問者である青年の想いがどう進展していくのかも想像の範囲内だ。

そんなふうだから、これはこんなにも気持ちよく見ることが可能なのだ。何の引っ掛かりもないわかりやすい作品。最後も当然の結末へとつながる。へんに、感傷過多にならずあっさりと終わらせるのもいい。だから60分に収まるのだ。

サヨナラの準備のための時間。死というものをきちんと受け止めるための時間。生きていくことに疲れた人たちが少し休憩できる場所。この小さな世界から彼らもまた、やがて出ていかなくてはならないはずだ。でも、これはそれまでのほんの少しの休日。

この作品を長編に仕立てることは可能だし、そうするともっと深みにある作品にもなる。これはそんな題材だろう。だけど、作、演出のマツキクニヒコは惜しげもなく、そういう膨らみを作らない。余白も作らず、一筆書きで見せる。僕はそんな潔さを買う。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ベロニカとの記憶』 | トップ | 『幸福なラザロ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。