
60代の後半に差し掛かった男が、昔の恋人の母親の死によってその遺書にあった遺品のことで弁護士から連絡を受けることから始まる物語。昔の恋人、ではなく、その母親。しかも、遺品というのが日記。謎が謎を呼ぶ展開なのだが、穏やかに老後を送っていたはずの彼の日常に波風が立つ。今の彼の生活が何なのか。ミステリ仕立てでひとりの男の人生が立ち上がる。
ここまでの人生を振り返り、自分を見つめなおすことになる。なぜ、学生時代の初恋の人と別れることになったのか。なぜ、今の妻と離婚したのか。そして、ひとり娘の出産を直前に控え、シングルマザーとして子供を産み育てようとしている彼女との関係も含めて、人生のすべてが解き明かされていくことになる。
大学時代を振り返るという構造から甘い感傷的なノスタルジーを期待すると、手痛い目に遭う。仕事をほぼリタイアして、老後を生きる時間。回想はなぜか離婚している妻に告白していくというスタイルで綴られる。彼女は彼の話を聞かされることで、改めてこの男と離婚したわけが明白になる。平穏に暮らしている老人の傲慢さが浮き彫りにされていく。
あの頃を振り返ることによって、自分の愚かさと向き合っていくことになる。タイトルロールのベロニカは終盤になって満を持して登場する。シャーロット・ランプリングだ。謎の核心に彼女が立つ。衝撃的なラストの展開のその先にあるものをみつめる。そこにある答えは心に沁みる。これはすごい傑作映画だ。