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映画・演劇のレビュー

『やじきた道中 てれすこ』

2007-12-01 08:36:21 | 映画
 まったく何てことない映画だ。こういうプログラム・ピクチャーの時代劇って、きっと映画の黄金期には毎月何本か量産されていたのだろう。僕でも子供の頃に東千代之介とか中村錦之助なんかが主演したやじきたものを何本も見ている。(もちろんTVで、だけど。たしか、昔火曜の夜、7時半から4チャンネルで東映の時代劇映画をやっていた。)

 しかし、今ではこんなタイプの映画は一切作られない。時代劇はお金がかかるし、そのくせヒットしないからだ。時代劇の復活を賭けて作られた『柳生一族の陰謀』以降、70年代に作られた時代劇はいずれもスペクタクル大作ばかりだ。でも、そのうちそんな映画も飽きられ、誰も時代劇には見向きもしなくなったのが、現状であろう。

 特別な野心もなく、ウエルメイドで、そこそこ笑えて楽しい。それ以上でもなく、それ以下でもない、そんな映画が作られた。それがこの作品だ。予想通りあまり客は入らない。劇場は年配の人たちだけで、ガラガラだった。

 中村勘三郎と柄本明。そして、足抜け花魁の小泉今日子の3人の旅が、のんびり描かれる。ことさらこの映画を持ち上げるつもりはない。しかし、こういうなんてことない映画は今の時代には貴重品だ。手抜きなく、きちんと作られてあるのがいい。安っぽい映画では当然ない。隅々まで心配りがなされた大人の映画だ。しかし、変な色気はない。淡々と描きすぎて、少し、盛り上がりにも欠ける。落語ねたは楽しいが、一つ一つのエピソードは弱い。退屈するシーンも多々ある。とても現代の観客の嗜好には合わない。でも、この映画は平然としている。

 過激な描写もなく、思いがけない展開もない。のんびりと、ある種の予定調和をおおらかに見せるだけ。上手い役者の芸を見て、拍手する。笹野高史の父親は絶品だ。ラストではなんだか胸が熱くなる。死んでしまった妻と子供に再会したやじさんの幸せそうな顔が印象的だ。てれすこを食べて仮死状態になり見た夢なのだが、こんなささやかなことが映画の終盤を彩る。

 たまにはこういう映画があってもいい。大型時代劇ですら商売にならない時代によくぞこういう映画を作ったものだ。でも、興行はやはり心配だ。みんな、ぜひ見てあげて!悪い映画ではないから。

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