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映画・演劇のレビュー

劇団せすん『断崖絶壁』

2010-12-24 21:14:57 | 演劇
岡部耕大による2人芝居にせすんが挑戦。定年退職になった男(秋田悟志)が本州最南端の断崖の上に佇んでいる。高度成長期の昭和30年代後半から2006年まで、40年にわたって勤め上げた。ひたすら真面目に働き続けた結果、残ったものは、ボロボロの心と体だけ。何の喜びも楽しみもなく、ひとりここに佇む。会社にも棄てられ、妻にも相手にされず、何のために今まで頑張ってきたのか、と思う。夢も希望もなく、ただあるのは絶望と、目の前の絶壁だけ。そんな彼のところに、自殺を思いとどまらせるため、若い神父(古謝伸二)がやってくる。

芝居はこの2人の会話だけで成立する。彼らのやりとりがテンポよく進んでいく。夜中から夜明けまでの時間を通して2人の中で何かが変化していく。関係は一転、二転していく。男の自殺を思い止まらせるためだったのに、いつのまにか、神父が自殺しようとしたりもする。お互いの今までを包み隠さず話していくうちに30代の男と、60代になった男という親子ほどに世代の違う見知らぬ2人の間に連帯が生じてくる。

ありきたりといえば、これほどありきたりな設定はない。話自体も目新しいものはない。よくあるパターンに終始する。しかし、このルーティーンワークにすら見える物語が、ほんの少し希望が見えてくるラストまで到達したとき、そこになんだか感動させられる。

新人、古謝伸二が拙い演技ながらも必死に演じている姿が好ましい。まだ年若く未熟者の神父の生真面目さが、しっかり伝わってくる。これは、これから人生を全うしようとする男と、人生の終わりに立つと思った男が、それぞれのスタート地点をここにみつけていくまでの小さなドラマである。それを演出の杉田満さんはとても丁寧に作りあげていく。ただ演出にメリハリがなく、幾分単調なので、少し眠くなる部分もある。だが、全体としては好感の持てる悪くはない芝居だった。(なんだか偉そうな終わらせ方でごめんなさい)

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