『凶悪』で観客である僕たちを震撼させた白石和彌監督の新作だ。今回も2時間15分に及ぶ大作で、(実は上映時間は2時間40分くらいあったらしいが、ファイナルカットでこの時間にしたらしい)主人公の警官の年代記になっている。
真面目で柔道しか取りえにない男(綾野剛)が、先輩に唆されて(悪魔のような優しい先輩は『凶悪』でも悪魔を演じらピエール瀧だ!)正義のために犯罪に染まる。どんどんエスカレートしていく過程がテンポよく描かれる。楽しいし、ハラハラする。でも、それがやがて、綾野の体と同じようの醜くなり、悲しくなり、だんだん嫌な気分になる。その推移が見事で、スクリーンから目が離せない。タッチとしては昔の東映実録映画のような作品なのだが、ぜ~んぜん軽~い。その軽さがなんだか今風でいい。いまはもう、70年代ではないのだ。70年代一世を風靡した東映実録映画路線の延長線上になる。今はもうVシネマでも作られないようなタイプの映画だ。もちろん東映は作らない。
なのに、それを東映映画として作り、全国東映系一斉公開で上映する。そのなんだかよくわからない意地とか、逆説とかが面白い。もちろん、そんなこととは関係なくこれは1本の映画としてよく出来ている。
だが、僕はこれがちゃんと東映映画であることがうれしい。前作『凶悪』は東映映画ではなかった。もちろん、あんな映画を今の東映が作るわけもない。悲しいかな、不良性感度の高い映画はもう東映では作られないのだ。
深作欣二監督の傑作『県警対組織暴力』を思い出させる作品だが、綾野剛が菅原文太の訳がない。強面の文太のポジションをちゃらい綾野が演じる。だが彼がどんどんちゃんとしたヤクザになっていく姿が素晴らしい。過激なシーンもたくさんある。セックスと暴力を抑えるわけにはいかない。だけど、それを独自のユーモアで見せていく。そこは白石監督の凄さだ。彼はふざけることなくシリアスにそれをする。『凶悪』のような怖さはないけど、これはある意味で、あれ以上に怖いかもしれない。
警察がヤクザと密接に関係を持ちながら、お互い持ちつ持たれつの関係で、利害を共有していく姿は怖い。笑いながらそれを見ている僕らも怖い。そんな怖さを絶妙なタッチで見せていくのが白石監督の持ち味なのだ。クライマックスは地味な展開と見せ方で、尻すぼみになるのがリアルだ。派手な見せ場を用意しないでも大丈夫という、その自信も素晴らしい。