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映画・演劇のレビュー

劇団未来『その頬熱線に焼かれ』

2016-07-02 07:23:09 | 演劇

しまさんは昨年の『スィートホーム』に続いて今年も古川健(劇団チョコレートケーキ)の戯曲に挑んだ。劇団未来の新鋭演出家しまみちひろによる傑作の誕生だ。ようやくしまさんは自分のスタイルをここに確立した。この数年試行錯誤を繰り返しながら、自分にとってどんな芝居が必要なのかを考え、毎年様々なタイプの作品に挑戦してきたが、ここに至ってようやくそれを見つけた。

 

「原爆乙女」を主人公にした反戦劇である。だがこれは反戦を旗印にしたプロパガンダやメッセージではない。25人の女の子たちが広島を離れアメリカに渡り手術を受ける旅のドラマだ。ここにあるのは、青春を失わされた少女たちのリベンジマッチがまずある。10代の貴重な時間を原爆によって奪われ、それだけではない、理不尽にも、人生そのものすら剥奪された彼女たちがもう一度本当の自分を取り戻すため、アメリカに乗り込む。そんな彼女たちの戦争を描く。「私たちはかわいそうな原爆乙女ではなく、ヒロシマガールズなのだ、」という硬い矜持。その凛とした姿勢が作品全体を貫く。原爆投下から10年。アメリカのボランティアからの招待でニューヨークに行き、ケロイドの治療を受けることになった25人の選ばれた若い女性たち。

ドラマは7人の登場人物によって語られる一夜のお話として収斂する。ひとりの女性が手術中に亡くなった。彼女の死の報を受けた集まった仲間たちの不安と恐怖、諦めと覚悟の入り混じったほんの数時間のお話だ。死んでしまった智子(前田都貴子)をセンターにして、その対極に、過激な発言をする弘子(白亜)と弱気になる敏子(近江博子)を配する。だがこれは彼女たち3人を主人公にするのではない。7人全員が主人公だ。これは彼女たちによるアンサンブルによるプレイである。それは背後に存在する25人も象徴する。しまさんは平等に彼女たちを描くのではなく、彼女たちを通してその総意を描こうとする。芝居自体はピンポイントで疑心暗鬼になる7人の揺れる心を丁寧にスケッチしていく。

 

舞台装置も素晴らしい。会場の都合で仕方なくそうなった狭いアクティング・エリアも効果的だ。高低差を利用した演出もいい。ハンディをメリットに換える。高いところまで続く階段がいい。まるで天国に昇るように見える。(それまでも、何度となく登り降りに使うけど、ちゃんと前田さんが最後には天国に昇っていくシーンとして見せる。)ケロイドのメイクもいい。きちんとした特殊メイクで、どきっとさせるように見せる。それが手術後、緩和される様も見せる。芝居は必ずしもリアルに表現することが最上の効果を発揮するわけではない表現なのだが、作品の傾向と表現が一致したとき、リアルは最大の効果を発揮する。

台本自体は幾分甘いのだが(そこが古川さんの特徴だ。それはいい面でもあるが、詰めの甘さがいつも物足りない)それすら演出のしまさんは自分の個性にした。夢見るはずだった少女たちの未来への希望をつなぐ。失ったものはもう取り戻せないけど、彼女たちはこうして生きている。かわいそうな原爆の犠牲者であるだけではない。そんな彼女たちひとりひとりの覚悟が、ここにはちゃんと描かれてあるのがすばらしい。


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