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映画・演劇のレビュー

伊藤彰彦『最後の角川春樹』

2022-02-21 09:32:07 | 映画

夢中になって一気に読んだ。僕と同世代の伊藤彰彦が書いた渾身の力作だ。2年間40時間に及ぶ角川春樹との対談をベースにして角川春樹の全貌に迫る。映画史家である伊藤が個人的な思い入れからスタートして角川春樹を調べ尽くし、挑んだ。一応インタビューという体裁をとるけどなんだか対決のようだ。いや、ふたりで力を合わせて「角川春樹という生き方」の誕生から現在までを余すところなく詳細に語り尽くす。聞き倒す。自分が知りたかったことを興味半分ではなく、自分の映画への想いを踏まえて、自分の人生をかけて、角川春樹という空前絶後の才能の深奥に挑んだ。

でも、そこには悲壮さも、はしゃいだような高揚もない。角川春樹とはなんだったのか、という謎に迫りたいという熱い想いの迸りがある。角川本人ですら知らなかったことにも触れ、話を広げ、進めていく。これまで事前に行ってきた綿密な取材と考察という下地があるから可能になったことだ。単なる聞き役ではなく、すっくと立ち対峙した。角川春樹のすべて、ではなく角川春樹という目の前の本人の等身大の80年を振り返る。

70年代後半、新しい日本映画の時代を作り上げた映画人としての角川春樹だけではなく、角川書店の破天荒な2代目社長としての彼だけではなく、さらには俳人としての彼だけではなく、冒険家として、宗教家として、さまざまな顔を持つ彼のその全貌も視野に入れた。でも、やはり僕にとっては「角川映画の角川春樹」だ。『犬神家の一族』に始まる角川映画はあの時代いい意味でもわるい意味でも日本映画界を席巻した。あの熱狂の時代をリアルタイムで体感した世代である僕たちにとっては角川春樹は特別な存在だ。

伊藤にとってもそうだった。だからこそ冷静に彼はこの書物で映画のことを取り上げる。『犬神家の一族』から『みをつくし料理帖』までの部分は細心の注意が払われている。熱くなりすぎないように、でも、ちゃんとあの熱気を伝えきれるように、と。

読み終えた時の満足感は半端ではない。最高の長編小説を読み終えた時の感動に勝るとも劣らぬ。


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