
イーストウッド『グラントリノ』以来の監督、主演作。もう「あれが最後だ」と思われたのに、ここに至ってもう1本、彼の雄姿が見られるなんて夢のようだ、とみんなが思った。今年一番の期待作。期待を見事に裏切る快作。このB級感覚が半端じゃない。こういう映画を90歳近くになろうとも作れるのだ。この映画の軽さがいい。これが『グラントリノ』の続編のような映画だったならがっかりしただろう。でも、そうじゃなかった。こんなにもやんちゃな映画だ。もちろん老いの問題は避けられないし、家族の問題からも避けない。今の自分から離れて好き勝手するのではない。今の自分に興味があるのだ。だいたい90歳のダーティハリーなんて誰も見たくはない。
麻薬の運び屋を演じる。悪い奴ではないけど、悪いことをしているのは確かだ。でも、彼は悩まない。この現実を受け入れる。金のためだけではない。組織から抜けられないから仕方なく、とかいうのでもない。偶然この仕事を請け負い、流されるように始める。自分が求められ自分もそれを受け入れる。それは自然の流れだ。
大金が手に入る。スリルを求める。自分が必要とされている。その3条件は大事だ。最初は知らなかった。でも、事実を知っても動揺しない。そう彼は悩まないのだ。普通ならちょっとは悩むところだろう。良心の呵責っていうやつね。欲に目が眩んで、とか、そういうんでもない。自分が置かれた状況を冷静に見つめて、そこで自由に振る舞う。そんな彼の自由自在さが素晴らしい。裁判でも毅然と自分の罪を認める。何が正しくて何が間違いだか、そんなことはわかった上での自在なのだ。一切言い訳はない。潔いというのとは少し違うけど、そんな感じでもある。