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映画・演劇のレビュー

『まく子』

2019-03-31 19:20:47 | 映画

西加奈子の小説の映画化なのだが、この不思議なお話をこんなにも自然なタッチで映画にしたのは驚きだ。阪本順治の『団地』のように日常の中に宇宙人が出てくるお話なのだが、それをファンタジーなのにファンタジーにはしないで、子供たちの目線で彼らの日々のスケッチとして綴っていく。

小学5年の3学期に転校してきた美少女。彼女に心惹かれる少年、というよくある図式なのだが、映画はそんな定番から限りなく遠い。温泉町の日々を丁寧に描く。そこは普通の人たちにとっては普通じゃない非日常の世界なのだが、彼らにはただの日常だ。そのギャップが見ている僕たちを不思議な気持ちにさせる。監督は僕は初めて見る新人、鶴岡慧子。実に上手い。

ありえないくらいの美少女を新音が演じる。彼女のキャスティングがこの映画を成功に導いたといっても過言ではない。11歳の少女なのに大人に見える。大人びた、というのとも微妙に違う。そんな彼女と向き合う少年山崎光の冷静さがまた素晴らしい。彼が自分の置かれた現状をきちんと理解して対応するからこの映画はとてもリアルに受け止めれる。嘘くさい映画にはならない。大人たちもまた、素晴らしい。特に草彅剛演じる父親。女にだらしないダメ男。だけど嫌な男ではない。それどころか、主人公はこのダメ男を通して成長する。こんな大人にだけはなりたくない、と思っていたはずなのに、彼を通して大人への一歩を踏み出すことになる。大嫌いな奴なのだが、そんな父親との距離の取り方がすごくいいのだ。

大人になんかなりたくない、という少年が大人を受け入れていく過程が丁寧に綴られ、ありえないお話なのに、すべてが信じられる。最後では、彼女は(つみきみほ演じる彼女の母親も含めて)確かに宇宙人なのだろうと、思える。(だいたい僕たちもまた彼らから見たら宇宙人なのだし。)

 

「撒く」という行為が「落ちるからきれい」という視点の獲得により、別の意味を与えられる。変化を受け入れられない少年は、変化は美しいという少女の言葉で、変わっていく。やがては大人になんかなりたくないと思っていた少年は大人になることも受け入れる。これはラブストーリーではないけど、ひとりの少女との出逢いと別れを通して少年が成長して行く過程が描かれる「恋愛映画」の傑作である。


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