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映画・演劇のレビュー

坂木司『ホリデー・イン』

2015-04-10 22:22:13 | その他
『ワーキングホリデー』が、かなり面白かった。こういうベタな話は、どうかと、思うけど、坂木さんは正々堂々とそれをやりきってくれたから、気持がよかったのだ。父と息子の話で泣かせる。もとヤンキー、今、ホストのバカ男、ヤマトのもとにいきなり小学生の男の子(進)がひとりで訪ねてきて、「お父さん、」と言う。自分に息子がいた、だなんて、知らずに生きてきた彼は吃驚仰天する。人間として、とてもよく出来たその小学生の息子に支えられながら、彼はちゃんと父へと成長していく。

これは、これまでお互いの存在を知らないまま過ごしてきた二人が出会い、親子になっていくまでのひと夏のお話だ。息子のためにホストを辞めて、宅配便の仕事に就き、周囲の人たちの助けを借りながら過ごすひと夏のハートウォーミング。

続編も出来た。(『ウインター・ホリデー』)が、今回さらにはそのスピンオフである。最初はあまり期待しなかった。続編がパワーダウンはしていたから、もう3匹目のドジョウはいないよ、と眉唾で読み始めたのに、これがまた、とてもよく出来ていて、やられた、って感じだ。

『ワーキングホリデー ビギニング』とで言うべき物語で、ヤマトが務めるホストクラブのオーナーであるジャスミン(おかま)の語りで始まる。最初と最後のエピソードは彼女のお話だ。そこに進の話や、ヤマトとの出会いが描かれる。6つのとても小さなお話はちゃんと連動して、2冊の世界へとつながる。2冊では脇役である人々を主人公にしたエピソードはとても気持ちよく本編の世界観を広げてくれる。

これに続けて、(都合2日間で)同じ坂木さんの『肉小説集』という短編集も読んだが、こちらもまたとてもよく出来たお話でこの2冊は、彼女が(たぶん彼女)類まれなるストーリーテラーであることを証明する。見事に設定を生かしきる能力、これはただものではない。三浦しをん『まほろ駅前多田便利件』シリ―ズとよく似たパターンだけれど、甲乙つけ難い。



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