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映画・演劇のレビュー

原田マハ『奇跡の人』

2015-04-07 21:21:14 | その他

これは凄まじい。日本版ヘレンケラーなんて、しかも、雪に閉ざされた津軽を舞台にして、明治20年という時代の話だし。読むのは気が重かった。いつまでたっても食指がそそられず、他の本を何冊も先に読み、置いたままになっていたのだが、ようやく意を決して読み始めた。

すると、これがおもしろい。というか、止まらない。こんなにも力強く、強烈な小説で、でも、それが昔ながらの「意地と根性」のスポ根タイプの展開ではなく、とても自然体で、こんなに困難な仕事にこんなにも果敢に挑むことに心打たれた。

三重苦の6歳のケモノのような少女を、まともな人間にするという使命を受けた、アン(安)の戦いが描かれる。だが、最初から彼女は実に賢く冷静で、アンは簡単に少女の心を開いていく。困難だったのは少女ではなく、周囲の無理解と、偏見、邪魔のほうなのだ。そちらに追い詰められていく。だが、彼女は負けない。ピンチにあっても、冷静な判断で乗り越えていく。

この小説を読みながら、改めて教育というものの力を思い知らされる。環境と条件を与えてやりさえすれば、人間はちゃんと成長する。反対にそれが奪われると、どれだけ可能性を持とうとも、埋もれていく。そんな当たり前のことがここからしっかりと伝わってくる。何が大切で、何がダメなことなのか、とてもよくわかった。これはそれだけでも、貴重な小説だ。

と、ここまで書き、なんだか偉そうだな、と失笑した。実は、読み終えて、あまりに感動して、言葉もなかったのだ。だから、テレてしまってこんな風に書いた。原田マハはこの『ヘレンケラー』のお話を明治20年の津軽に置き換えて、まったく新しいお話へと変貌させた。しかも、最後はちゃんと『ウォーター』へと持ってくる。

実話としか、思えないほどのリアリティーだ。背景を丁寧に描くからなのだが、それにしても、こんなにも自然体で、お話を綴る。それって、凄い。





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