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映画・演劇のレビュー

『この世界の片隅で』

2016-11-21 20:57:54 | 映画
この小さなアニメーション映画が描く世界の中で、ずっと身を潜めていたいと思った。誰にも知られず、この世界の片隅で生きる彼女たちを見守りたい。僕はやがて世界がどうなるのかを知っているけど、そんなことはまるで大事なことではない。ただ、こうしてここで生きている。そのことを何よりも大切にしたい。この映画を見ている2時間10分間の幸福をかみしめる。生きているということはきっとそういうことなのだと思う。



昭和8年広島。お兄ちゃんと幼い2人の妹が、おばあちゃんのところに行く。やがて、月日は流れ、昭和18年、娘は呉へと嫁いでいく。戦争は激しくなる。のんきな田舎だったのに、連日の空襲で町は焼かれ、生活は困窮していく。配給はどんどん少なくなる。でも、家族は生きる。主人公の女性は、求められて嫁ぎ、大変なこともたくさんあったけど、そこで愛されて、生きる。



広島の実家は原爆にやられ、生き残った妹も原爆症を患い、爆撃で自分も右手を失う。でも、夫もいる。義父母もいる。義姉もいる。そして、広島で出会った戦災孤児を引き取る。



悲惨な戦争体験を伝えるため、ではない。これは人々がどんなふうにして「あの時代」を生きたのかを伝える映画だ。それはあの戦争だけではなく、どの戦争でも、どの時代でも同じ。人がそこにいて、生きている。ただ、それだけで、奇跡のように愛おしい。この映画を見ている時間の幸福はそういうところから生じる。ずっと彼女たちと一緒にいたい。そんなささやかな「至福のとき」が、ここには描かれる。
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