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映画・演劇のレビュー

『ミス・ペレグレンと奇妙なこどもたち』

2017-02-12 21:58:35 | 映画
ティム・バートンの最新作はとてもチャーミングで切ない冒険物語だ。見る前はもっとかわいらしい童話のようなお話なのかと思っていたが、見始めてこれは少しようすが違うぞ、と思わされる。一見すると、よくあるような不思議な世界に迷い込みそこで暮らす奇妙なこどもたちと出会い一緒に過ごす心地のよい時間を描くのか、と思わせておいて、実はさにあらず。そこにとどまったりはしないのだ。現在から1943年のある日で時間が止まったままの彼らの1日にやってきた少年が彼らを守って大冒険の旅に出るのだ。



この映画にはこれまでのバートン映画のあらゆる要素がすべて詰まっている。『シザーハンズ』の庭にあった芸術的な剪定された木の彫刻もある。アリスやチョコレート工場のような不思議の国にも迷い込む。だけど、この映画は、そこでのお話ではなく、そこからお話が始まるのだ。



彼の映画の中で僕が一番好きだった『ビックフィッシュ』のようなタッチで、少年の冒険が描かれる。うまく世界となじめない彼が殺されたおじいちゃんの謎を究明するための旅に出て、そこでさらにもうひとつの不思議な旅に誘われる。時空を超えて襲ってくる敵と戦いながら、安住の地を求めての大冒険を繰り広げる。これは壮大な冒険活劇なのだ。確かにこれはファンタジーという括りの中に収まる映画なのかもしれない。でも、甘いだけのメルヘンではなく、世界がどんどん広がっていくところが素晴らしい。



これはおじいちゃんと孫の話だ。彼がおじいちゃんのホラ話を信じた時、奇跡が起こる。それはホラなんかじゃないからだ。この世界には不思議なことが確かにある。それは信じる者にしか見えない。お話自体はなんだか『Xメン』みたいで、超能力合戦にもちゃんとなるから、これはちょっとしたアクション映画なのだ。でもマーベルコミックのような派手なアクションだけの単細胞映画ではなく、そういうシーンも含めて正真正銘の「まるごとバートン世界」なのである。『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』とかでさんざんやってくれたストップモーションアニメのシーンもちゃんと満載してあるし、やりたい放題だ。おもちゃ箱のような映画。でも、これをティム・バートンの集大成だ、とか言わない。ただ自分の好きなことを好きなようにやっただけ。そういうところも彼らしい。変に力こぶを作ることはない。自然体でこの大作映画をまるでプライベートフィルムのように作り上げるのだ。とても素敵な映画である。
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1 コメント

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さすがです! (ハッピーハッチャン)
2017-02-18 23:09:48
深いところを見てますね。

監督作品をずっと見てるからわかる心地よさ。

気持ちいいでしょうね。
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