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映画・演劇のレビュー

朝日奈あすか『やわらかな棘』

2010-09-24 21:58:36 | その他
 いやな話だ、と思う。4話からなる短編連作は、いずれも悲しい話ばかりだ。たった4つのエピソードだが、話はロンド形式になっている。最後まで行くと元に戻ってくる。

 人間ってどうしてこんなにも愚かなのだろうか、と思う。恋人に棄てられた女は、彼の結婚の邪魔をする。そんなつまらない復讐なんか何の意味もない。わかっていても心が収まらない。くだらない女だ、と自分でも思う。たぶん。でも、どうしようもない。その恋人と結婚した女が次の話の主人公である。姉と妹がいる。双子だからそっくりの顔をしている。だが、2人はまるで違う性格をしている。最初からそうだったのではない。お互いを見て徐々にそうなっていった。あんなふうにはなりたくない、と思う。親のいいなりになり、楽をして暮らす妹。親に刃むかい、家を出て自活する姉。彼女は今保育所で臨時職員として働く。18歳で子供を産んでしまった女は幼い娘を育てる。今日もその保育所に行く。母親と彼女と、幼い娘の3人暮らしだ。母親は入院している。その病院の近くの花屋で働く女は、弟が自殺してから、ものが食べられなくなった。不倫相手からの電話を待っていた日に弟は自殺した。自殺は、彼女のせいではない。だが、彼女は自分を罰したかった。

 ここに描かれる後味の悪い4つの話は、いずれも誰の中にもある感情が描かれる。そんな負の感情がこの小説のなかでどこまでも増殖していく。抑えられない。前向きに生きられたならいい。だが、そうはいかないのも事実だ。人は、この「棘」と向き合うしかない。主人公たちだけではない。彼女たちを取り囲むすべての人たちが同じように負の感情に突き動かされて生きている。それをなんとか押さえ込もうとして努力している。愚かな人間を冷徹に見つめる。その視線は危うげだ。そんなぎりぎりのところで、人は生きている姿が描かれる。



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