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映画・演劇のレビュー

ブルーシャトルプロュース『ゼロ・ファイター』

2013-06-11 22:18:05 | 演劇
 今年、1月に初演された『ゼロ』をリニューアルしての再演である。上演時間が20分ほど短くなり、とてもすっきりした作品になった。ストーリーが整理され、わかりやすくなり、よりスピーディに話も展開していく。すさまじい勢いで死に挑む男たちの生きざまが感動的に描かれた『ゼロ』をリニューアルさせる過程で大塚さんが大事にしたことは、描くべきことをよりシンプルにする、ということだ。これは危険な行為でもある。

 その結果、ここには≪空を飛びたい≫という純粋な想いが、中心になり、戦争については背景にまわってしまう。戦争や特攻を美化するわけではないが、かなり微妙な問題を扱っているだけにその描き方は難しい。死をゲーム感覚で扱っているわけではないけど、これではキレイ事として描いていると言われても仕方ないところだろう。だが、大塚さんは、そこでためらわない。少年たちの純粋な情熱が彼を支える。

 3人の少年たちがドラマの中心になる。ゼロ戦のパイロットとなり、祖国のために命を捨てる。そこには悲壮感はない。彼らの憧れのほうが前面に出ているからだ。だから芝居はきれいごとになる。

 先にも書いたがスポーツ感覚でこの題材を扱うことはとても危険だ。だが、そんなこと十分にわかった上で作、演出の大塚雅史さんは、敢えてこれを青春ドラマとして見せる。どんな状況にあっても、人は夢を持ち、その夢に向かって全力で生きている。それは戦時下でゼロ戦に乗って死んでいく彼らだって同じなのだ。死の恐怖と闘い、その先にある自分らしい生き方を見定める。そこにはぶれはない。

 華麗なドッグ・ファイトのシーンは手に汗握る。役者たちの激しい動き(アクションやダンスによる)と大音響の音楽が相俟って、興奮させられる。エンタテインメントとして、とてもよく出来ている。

 だが、ただかっこいいだけでではない。ここから戦争というものの愚かさが、若い観客にちゃんと伝わるといいのだが、どう伝わったか、微妙だ。



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