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映画・演劇のレビュー

スイス銀行『暮らしとゾンビ』

2013-06-11 22:20:16 | 演劇
 このタイトルに心魅かれた。2つの単語の組み合わせとしてなんだかとんでもなく異質で、でも、その兼ね合いになんだか心そそられる。このあまりにもの取り合わせの妙。日常と非日常が、なぜかこんなにも自然に並んでいる姿が美しいハーモニーを奏でることの不思議。これはとても静かで穏やかなゾンビと共に暮らす人々の時間が描かれる作品に違いないと、勝手に解釈して心ときめかせた。

 しかし、実際に目にしたものは、そうではなかった。全く予想と違う芝居で、ゾンビをテーマにした普通のコメディーだった。確かにこれがコメディーであることは、知っていたけど、こんなにも、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』そのままの設定によるコメディーだなんて、思いもしなかった。やられた。(まぁ、僕が勝手にやられただけだが)

 ある日突然ゾンビが大挙して現れて人間を襲う。彼ら5人はゾンビから逃れるためこの地下室に隠れる(結果的にはここに閉じ込められた形となった)そんな彼らゾンビの襲撃を恐れ、怯えながらひそかにそこで暮らすという話だ。映画の『ゾンビ』が描いた世界をそのまま使い(ショッピングモールに逃げ込み、そこでゾンビたちと戦うというのが、映画の筋書きだから、この芝居はその直前のお話となる)その設定の中で笑わせるシチュエーションコメディーだ。

 5人の掛け合いで見せる。限定された空間での非日常の世界は、あの手この手のストーリーの仕掛けと相俟ってちゃんと笑わせてくれるし、しっかり楽しませてもくれる。よく出来たコメディーだ。もちろん90分間退屈しない。だが、僕は自分が勝手に想像したアイデアとの落差に、少ししょんぼりしてしまった。

 妄想の中では、ゾンビは人間となんとか折り合いをつけて暮らしている。「生きるのって、たいへんね」と言いながら。でも、あのチラシとこのコピー(「生きるのって、たいへんね」)から、僕のような思い込みをした人がきっと、あと数人はいるはずだ。たぶん。


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