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映画・演劇のレビュー

『ザ・ロード』

2010-07-07 19:22:29 | 映画
『ノーカントリー』のコーマック・マッカーシーのベストセラー小説の映画化らしい。『ノーカントリー』の、というところに引っかかった。コーエン兄弟の手で映画化されたあの作品の感動再び、だなんて思ったのではない。そこまで虫のいい話はなかなかないし。

 劇場でこの映画の予告編を見た時、これっていつもの終末もので、本来大スクリーン向けの大作なのではないか、と思った。それが、気になっていたのだ。SF娯楽大作タイプの映画なのに、それがガーデンシネマで上映される、ということに違和感を感じた。そこに追い打ちをかけたのがこの『ノーカントリー』原作者作品、という部分だ。ミニシアター向けの文芸映画っぽいパッケージングから遙か離れたSFスペクタクルが、実はどこまでも地味な文芸映画として作られるという妙。その辺がとても気になり、劇場に。

 しかも、この日は同時に全く同じような設定とストーリー展開の映画『ザ・ウォーカー』とはしごする。同時期にこの2本が公開されるなんて、映画会社がわざとこういう処置を講じたのか? (まぁ、そんな訳ないけど)こちらはジョエル・シルバー製作、デンゼル・ワシントン主演の正真正銘の娯楽大作。比較検討も楽しそう、と期待したのだが。

 正直言うと、なんか、暗い気分になった。よりによって久方ぶりの休日に、こんな映画を2本連続で見るなんていう愚行を反省してる。せっかくのお休みだったのに、どっと疲れた。こちらの方は映画の出来は悪くはない。それだけに、2本連続という行為は失敗だった。

 ある日突然世界が終わってしまった。妻はお腹の中に宿った子供を産むことを拒否する。こんな世界に生まれてきたって何も幸せなことはないから、と。しかし、夫は子供を産んで欲しいと望む。やがて、妻はいなくなり、生まれた子供と彼は2人で生きる。彼らはこの先の見えない終末の風景の中を旅する。心の中に火をともしながら。

 次々にいろんなもの(とんでもない人たちやそれに伴う苦難)と出会い、それを乗り越えていくサバイバルが描かれていくが、やはりこれはただのアクション映画ではない。この状況の中で生じるリアルが丁寧に描くとこういうことになるというだけの話だ。ヴィゴ・モーテンセン演じる父はヒーローなんかではない。ただの弱い人間に過ぎない。しかし、彼は最後まで命をかけて息子を守る。彼の想いは、息子に確かなものとして伝わったはずだ。

 この世界には安住の地はない。やがて、食糧も底を尽きてしまうだろう。海を目指して旅したが、その先には行けない。でも、彼らは旅を続ける。新しい仲間と共に父の意志を受け継いで。この映画は生きることをとことんまでつきつめて見せてくれる。重く心にしみる映画だ。


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