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映画・演劇のレビュー

小手鞠るい『愛を海に還して』

2010-07-10 06:32:23 | その他
 久しぶりに小手鞠るいの小説を読んでみることにした。正直言うとこの人の生ぬるい世界は性に合わない。だが、角田光代が帯に書いている文を読んで、もしかしたら、と思い手に取った。「幸福というかなしみ。喪失というゆたかさ、こんなふうに人を愛することが、こんなふうに人を失わずにいることが、私たちにはできるのだ。」という一文である。なかなか、ではないか。彼女が言うようなことが書かれてあるのだとしたら、この小説は一見の余地がある、と踏んだ。

 だが、それはただの宣伝文でしかなかった。ほんとうに角田光代はそんなことをこの小説を読んで感じたのか? なんか眉唾だ。僕にはただのつまらない駄文にしか感じられなかった。こんなにも恥ずかしいくらいに拙い小説をよくぞ出版してくれたものだ。これはただの廃棄処分品でしかない。絵空事の感情に人は心を動かされない。ここに描かれる綺麗事は女の子が日記にでも書く空想のストーリーでしかない。現実にこんな恋愛をされたなら、ちょっと怖い。夢見がちな少女が想像の世界でまどろむ、そんな程度の出来で、人さまに読ませるレベルにすら達していない。まぁ、これだけたくさんの小説が出版されているのだから、どこまで酷い本が活字になって流通されていても不思議ではない。ただ、この程度のものを持ち上げてはならない、と、少なくとも僕は思うのだが。

 一度結婚に失敗した女が歳下の優しい青年と同棲していて、彼の優しさに包まれて今は幸せに暮らしている。だが、仕事で知り合った同い年の男に恋をして、彼も彼女のことを大好きになり、心を抑えられない。まぁ、こんな感じの安っぽい話だ。話自体は問題ない。どんなこともこの世界には起こりえる。当事者にとっては深刻なことなのだ。ギャラリーがとやかく言うことではない。この三文小説のネタにすらならない陳腐な恋愛をいかに見せるかが作者の腕の見せ所だろう。どんな話からでも真実を描くことが出来る、はすだ。

 図書館で彼女の新刊をもうひとつ借りたので一応読んでみる。たった1冊の失敗で決めつけるのは性急過ぎる。

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