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映画・演劇のレビュー

劇団せすん『チロリンマンの逆襲』

2010-07-07 18:52:43 | 演劇
 正直言うと、酒井美知代さん演じる少年にはかなり違和感があって、さすがに受け入れ難い。彼女が悪いのではなく、いくらなんでも年齢的に無理があり過ぎるのだ。芝居だから、と言いたいところだが、一応リアリティーを追求した現代劇なんで、そこに引っかかったら、芝居に集中できない。さらには、あのチロリンマン! いくらなんでもお笑いではないのだから彼が出てくるだけで真剣に芝居を見れなくなる。そんなことではいけない、と思うのだが、僕には不可能だった。酒井さんの少年と朝丸剛基さん演じるチロリンマン(なんで、女性なのにチロリンマンなのだろうか?)とのやり取りが、この芝居が大きく動き出すための大事な導入部をなすだけに、そこでつまずくと残念だがこの芝居全体も躓く。

 キャスティングはなかなか難しいし、劇団の置かれている状況も反映されるから、思うようにはならないものだが、せめて芝居は役者に合わせて変化させてもいい。例えば、酒井さんの役はお婆ちゃんにするとか、さらには、朝丸さんのチロリンマンはちゃんと男の子に設定し直す、とか。そこから細部だけでもいじったなら、この台本の本質は変わらないまま説得力のある芝居に出来たはずなのだ。

 演出の三輪さんはいつもながらとても丁寧で、真面目な作り方で好感が持てる。「あなたのお家の残酷喜劇」というコピーが生きてくるためにはこの真面目さは大事だ。バカバカしい設定と、ありきたりな展開だからこそ正攻法の演出が必要となる。だが、そのためには、役所はもっと自然体でなくてはならない。秋田高志さんと井上清美さん演じる夫婦は、いつのながらの軽やかさで、この芝居にぴったりだっただけに残念でならない。

 異物であるチロリンマンによってペースを乱され段々彼に恐怖を抱いていく、という展開はちょっとしたホラーにならないと、いけなかったはずだ。これはお笑いではない。観客でさえ、その笑いが引き攣るようにさせられるべきなのだ。キャスティングプランがすべてに影響した。しかも、オチがあまりに単純でつまらない。途中からネタばれだし。華族の再生というテーマ自体は悪くないのだから、オチなんかどうでもいいのだが、本来のテーマに説得力がないのは致命的だ。

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