ようやくこの映画の後編を見ることが出来た。期待以上の出来でうれしい。3月に前編を見たときに感じた危惧はただの杞憂に終わったようだ。大友啓史監督は、今回はアクション映画ではなく家族の物語を作ろうとしていた。その想いがちゃんと伝わる完結編に仕上がる。
前編を見たとき、ただひたすら戦い続ける主人公の零(神木隆之介)のストイックな姿に共感しながらも、それだけで終われないな、と思った。だから全快はこの映画の評価に関しては保留したのだが、先日ようやく見ることが出来たこの後半部分を通して、大友監督の意図が明確になる。戦いのドラマは、家族のドラマの中に収斂されていく.これは「ホームドラマ」だったのだ、と理解する。
4時間40分に及ぶ作品として完結した。2部作として作りあげた意味がはっきりとする見事な仕上がりだ。怒濤のラストの展開部分がすばらしい。将棋の話ではなく、家族の話として完結させるためには川本家のドラマが描けなくては意味が無い。そこと対比させるためにも、零の養家のエピソードも原作以上に盛り込む。豊川悦治演じる父親の比重は全体の要だ。川本三姉妹と、彼らを棄てた父親(伊勢谷友介がすばらしい!)のドラマに説得力があるのもいい。原作はもっと嫌なヤツとして描かれていたけど、映画版では、彼の弱さが強調させる。豊悦も含めて、核となる2人の父親が魅力的に描かれることで、零の立ち位置が明確になるのがいい。彼が戦うのは将棋盤の上だけではない。
後編は最初と最後に2回、宗谷名人(加瀬亮)との戦いを持ってきて、その間にすべてを挟み込んだ。だから、零が本当に戦うのは彼ではない。ラストであかり(倉科カナ)が父親に手をあげて香子(有村架純)が父と和解する。彼女たちの決着を受けて、零が後藤(伊藤英明)との戦いに挑む。その展開がいい。獅子王戦の決勝、宗谷名人との再戦自体は描かない。その直前で映画は終わるからだ。見事な幕切れではないか。