『キッチン常夜灯』を読んでいるから、この作品も安心して読める。ただあまりテンポはよくないから、最初は少し退屈。おばあちゃんと孫のふたりが銀座にある老舗雑貨店を守るため奮闘するというよくあるパターン。なぜかそこではたい焼きも売っていて、しかもそれが大人気。バイトの青年は謎めいている。
主人公は雑貨バイヤーをしていたが、仕事を退職した40歳。祖母90歳の経営する雑貨店を引き継ぐことに。食を題材にした作品はたくさんあるが、雑貨店って今までなかっただろう。ただパターンとしては今まで通り。銀座を舞台にして、飲食店ではないお店屋さんの話という意味では昨日読んでいた『夜更けより静かな場所』に似ているかもしれない。あれは古書店である。しかも2冊とも店を引き継いでいく話というのも共通している。
昔からある小売店はどんどん無くなっていき、個性のない大型モール店になる。どこに行ってもイオンだらけ。大阪市内はライフばかり。つまらない時代になった。もちろんイオンもライフも重宝しているけど。
僕は街歩きが好きだから、そういう面からもこの小説は好き。銀座の街。銀座から勝鬨橋の祖母のマンションまで歩いていく場面とか楽しい。僕は大阪の至る所歩いているけど、東京はまだまだだ。(まぁ当たり前かぁ。東京は広いし、大阪で暮らしているから東京は年に何回かしか行かないし)
そんなこんなで、3話まで読み終える。1話が70ページから80ページというボリューム。話もゆっくり進んでいく。お客さんとのやりとりが丁寧に描かれる。お客の探しものを巡るエピソードもある。あれもこれもというわけではなく、しっかりお話を綴っていく。
そして第4話である。ここでこれまでのすべてが明らかになる。この小説は実はここに向けてゆっくりとした歩みを続けていたのだ。ラストの手紙を読んだ時には涙が止まらなかった。大切なものを引き継いで生きていくこと。ちぐさ百貨店を、綺羅はおばあちゃんから確かに引き継いだ。