この手のYA小説は数あるけど、そこにはなかなかの傑作が隠れていたりするから侮れない。今回の初めての作家は日大中国文学科卒で商社勤務を経て、オランダ、アイスランド,ハワイ、ドイツ等(この「等」って?)に移り住み、現在はアメリカのオハイオ州在住という強者らしい。今回の小説はよくある学園ものだが、そんなキャリアが作品に生かされているのか、なんてことも楽しみ。
あまりにもパターンに忠実すぎていささか不気味。何らかの作者の意図がそこにはあるのかと勘繰ってしまうくらいだ。だがまるで無邪気にやっているみたい。もしかしたらこれはバカなのか、とも思う。お弁当眼鏡男子は、眼鏡を外して髪を整えるとイケメン男子になるというまさかの古典的展開。ライバル男子はふたりの恋の邪魔をしてこない。だからお話は素直に心地よい展開をする。だけどそれではなんだか物足りない気にもなる。
家を出て行った母親とのわだかまりはかなり丁寧に描かれてしつこい。実は彼女のこだわりはそこにある。家族の崩壊の方が心地よい学園ドラマより優先されるのだ。後半その側面が前景に出てきてかなり暗くなる。主人公は母親の不倫出奔に苦しむ。しかも相手との間には子どもが出来た。
終盤まさかの展開で、これがしたくて作者はここまでを書いていたのか、と思ったが、この肝心で大切な部分が中途半端に終わるのが残念だ。娘と父の対決である。だがそこを徹底的に描き込めない(込まない)まま決着をつけてしまったのが悔しい。ふたりにはもっとトコトン戦って欲しかった。
子どもから目を逸らしてしまうあんな父親は断固糾弾するべきだ。妻に逃げられてしまうのもアンタのせいである。子どもをあそこまで傷つけて許されるはずはない。彼の問題にスライドしたら本題から外れてしまうのかもしれないが、やるべきだった。だけどそうなるとこれはもうYA小説ではなく、純文学の課題になるのだろうが構わないじゃないか。だいたいジャンルなんてどうでもいい話だ。