のぞき込んだら 母はおそるおそる手を伸ばして
そっと さするように ひだり頬に触れてきた
「なあに…」 『… き れ……』
小さな声が途切れて
こころに刻むように しばらく見詰めあった
いつかしら わたしの子どもになった母
『あのね… あの ね … 』 振りしぼるようなことば
ごめんね… 聞き取れない
-☆-
ずっと ライバル
…何もかも かなわない 真似できなかった
朗らかで 誰でも優しく受け入れる
あなたの周りにはいつも 華があった
甘えた風で ほんとうは勁い
こころはいつも 普段着のまま
おおらかで 素敵だった
正直で 飾り気なく 繕うことを恥じていたね
-☆-
あれから …
大事そうに細かく畳んである 切り抜きを
ポシェットの底に 見つけたんだ
粉が飛ぶくらいすりきれて 褪せていたけれど
昇進を告げるセピア色の 小さな新聞記事を
まるで お守りのように忍ばせていた
あなたのよりどころ…
たった三行か四行の ちっぽけな文学を
何回も 何度も なぞっていたのね
なかなか 会えなかったもの
その宝物を 弟に持たせましたから
-☆-
透きとおるほど きれいな顔で
さいごに見たものは 何だったの
伝えたかったのは なに?
一所懸命生きていたことを
ずっと覚えています
ふたり分の愛で 育ててくれて
ほんとうに… ありがとう
あなたは胸のなかで 見えないお守りのように
心づよく いつでも話しかけてくるのです
みんな 元気でいますからね
明日は ちょっと早い母の日です