想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

何者じゃ! セーフ!

2008-11-27 10:03:58 | Weblog

     少年が家の前に立っていると、向こうから大学生が歩いてきた。
     学ランに角帽の大柄な学生だ。脇下に長い木刀をはさんでいる。
     そして、少年の前までくるとやおら
     「なにものじゃー」と言うではないか。
     少年は、ちょっと驚いた。
     それだけ言うと、うむ、笑うような笑わないような顔をして
     学生は来たときと同じ大股で去って行った。
     なんだ、あれ? なんか変。
     少年はその後ろ姿をしばし呆然と見送った。



     ある日のこと、少年が家の前に立っていると、向こうから
     大学生がやってくるのが見えた。前とは別の男だ。
     ちょっと身構えたが、今度の学生は木刀は持っていない。
     少年の前に来ると立ち止まり、突然、「セーフ」と言った。
     両手を広げ、審判のするあの格好である。
     油断した少年は、なにがセーフなのか、わからないまま
     あまりの言葉に驚いた。が、ま、セーフでよかった。
     学生は歩いて行った。

     なんか変、おかしかった。

     また別な日、学生は近づいてきて「アウト」と言った。
     半笑いである。
     でもセーフで免疫があるので、今度は飛び下がったりしない。

     少年は家庭教師に来ていた親戚のお兄さんに尋ねることにした。
     あの学生たちと同じ大学に通っているからである。
     ねえ、大学に変な人いる?
     どんな?
     木刀を腰にさしてる人。
     ああ、いるね、いるよ。どうして?
     いや別に。 セーフって言う人もいるの?
     セーフ? なにそれ?
     いや別に。
     木刀さしてるヤツ、変わってるよ、見たのか?
     うん、何者じゃって言われた。
     ああ、あいつだな。いるね、ときどきみかける。

     少年は、納得した。
     大学生にも変な人はいる。オトナも、けっこう変なのだ。



     昔、大学生にからかわれていた少年は長じて、
     いっしょうけんめい話をするうさこをからかう。
     真剣な顔をすればするほど、目の前に人差し指をじーっと持ってきたり
     して、笑う。意味などなにもない。

     真面目に話を聞いていると、オチはとんでもない冗談だったりする。
     力が抜けて、ちょっと、楽。

     数々おちょくられて、要注意とさとったうさこは、気をつけている。
     気をつけようとするこちらを見て、ほくそえんでる変な人である。
     突然、セーフとか言って両手を広げられたときは驚いた。
      なんだかな~と聞いてみると、先の話だった。
      可笑しい。
      少年の日、自分が驚いた以上にうさこが飛び上がるのをみて
      さぞかし、うれしかったろう。へへへ。違うのはうさこは少年の歳より
      ずいぶんいってたってことだが。ま、いいか、心は少年。
     
     「何者じゃ」って立ち止まった大学生の直感は冴えていたかも。
     数十年後、たくさんの人がオトナになった少年に助けてもらったり
     教えられたりして、「セーフ」だ。

     うさこは、「アウト」って言われないよう努めているけれど、
     ドジってばかりで、そのたびに、ねずみ師は「セーフ」とからかい
     かくして、うさこは落ち込む手前で立ち直る。
     
     深刻な顔をした人が帰るときは決まって明るい顔をして出て行く。
     ユーモアは柔軟体操みたいだ。
     ねずみ師は、変なひと、である。
     
コメント
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