愛着のある樹、黄檗が今年もやわらかく色づいていた。二、三日すれば
もっと濃い黄色になる。
桜の次に色づき始め、紅葉よりもゆっくりと変わってゆく姿を日ごとに
確かめる。わたしはこの樹でいつも最初の秋を感じるので、なんとなく
キハダさん、そろそろ始まりますね、とさん付けで呼んだりしている。
キハダさんは漢方薬である。
うちにはハーブも少々植えているけれど、元々あった木の樹皮や葉に
薬効がけっこうあることをだんだんと知ってきた。
森は恵みに満ちた宝庫であるが、見えない鍵がかかっている。
鍵の暗証番号は植物図鑑にあるかと思ったら、それは初心者の思い込み
であった。薬効というのはそれ一つで成るものではないらしく、特に
和漢は調合と時節を選ぶのでいつでも採って出来るわけではなかった。
それに身体のほうも合うとは限らない。
和漢の薬が合うには、おだやかな心持ちも必要なようで、急激に良く
治そうと思えば効いていない気がしたりもして、今を辛抱できない。
自分の都合にモノを合わせてどんどん「便利」にしてきたことが近代化
なら、使うモノに合わせるなんてのは時代遅れである。
時代遅れは人気がないから人が振り返らなくなった。
そうして一巡りして、今はあわてて探しているようだけど、ぶっ壊して
しまった自然を取り戻すのはそう簡単じゃない。
雑木林の原生林は宝の山。そうと聞けば観光客や採取目的の人間がまた
どっと踏み込んでくる。極端から極端である。
「良いモノ」に人が群がり、人の欲は毒気を放って調和していた場所を
混乱させる。
先日、IKEAに本棚を買いに行った。あまりの安さとデザインのユウワク
に釣られてしまって。会計を済ませて宅配の手続きをするときになって
送料が棚の値段より高いことを知ってびっくり、キャンセルした。
それでよかった。買わずに済んでよかった。
IKEAがダイジョウブな人もいるだろうけれど、一緒に行った友人と二人
とも店内を歩いているあいだに具合が悪くなってしまった。
空気中に飛び交う微粒子に含まれている何かにやられたようで、喉と
眼が痛い。ホルムアルデヒドか? 染料に含まれているものか?
それとも、傍らを歩きながら友人が「この安さって、子ども使って作って
るからなんだよな」とブツブツブツブツと言い続けるのを聞き続けた
からなのか? 不明であるが、とにかくキャンセルした後、バタバタと
駐車場へ向かい車に乗り込んでほっとした。
友人は帰宅したあと発熱したようであった。わたしは床に溢れた本を前に
自分の愚かしさにぐったりしたのであった。
この森の奥のほうに、主のような大木があって、その場所はだ~れにも
言えないのである。誰にもみつからず、大きくなったんだから。
そっと近づいてその前にじっと立つ。一本で立っている樹はでも独りでは
ない。森は編目を張り巡らしたようにつながり地中にも空にも続いている。
仰ぎみて、深呼吸して、帰ってくる。
もっと濃い黄色になる。
桜の次に色づき始め、紅葉よりもゆっくりと変わってゆく姿を日ごとに
確かめる。わたしはこの樹でいつも最初の秋を感じるので、なんとなく
キハダさん、そろそろ始まりますね、とさん付けで呼んだりしている。
キハダさんは漢方薬である。
うちにはハーブも少々植えているけれど、元々あった木の樹皮や葉に
薬効がけっこうあることをだんだんと知ってきた。
森は恵みに満ちた宝庫であるが、見えない鍵がかかっている。
鍵の暗証番号は植物図鑑にあるかと思ったら、それは初心者の思い込み
であった。薬効というのはそれ一つで成るものではないらしく、特に
和漢は調合と時節を選ぶのでいつでも採って出来るわけではなかった。
それに身体のほうも合うとは限らない。
和漢の薬が合うには、おだやかな心持ちも必要なようで、急激に良く
治そうと思えば効いていない気がしたりもして、今を辛抱できない。
自分の都合にモノを合わせてどんどん「便利」にしてきたことが近代化
なら、使うモノに合わせるなんてのは時代遅れである。
時代遅れは人気がないから人が振り返らなくなった。
そうして一巡りして、今はあわてて探しているようだけど、ぶっ壊して
しまった自然を取り戻すのはそう簡単じゃない。
雑木林の原生林は宝の山。そうと聞けば観光客や採取目的の人間がまた
どっと踏み込んでくる。極端から極端である。
「良いモノ」に人が群がり、人の欲は毒気を放って調和していた場所を
混乱させる。
先日、IKEAに本棚を買いに行った。あまりの安さとデザインのユウワク
に釣られてしまって。会計を済ませて宅配の手続きをするときになって
送料が棚の値段より高いことを知ってびっくり、キャンセルした。
それでよかった。買わずに済んでよかった。
IKEAがダイジョウブな人もいるだろうけれど、一緒に行った友人と二人
とも店内を歩いているあいだに具合が悪くなってしまった。
空気中に飛び交う微粒子に含まれている何かにやられたようで、喉と
眼が痛い。ホルムアルデヒドか? 染料に含まれているものか?
それとも、傍らを歩きながら友人が「この安さって、子ども使って作って
るからなんだよな」とブツブツブツブツと言い続けるのを聞き続けた
からなのか? 不明であるが、とにかくキャンセルした後、バタバタと
駐車場へ向かい車に乗り込んでほっとした。
友人は帰宅したあと発熱したようであった。わたしは床に溢れた本を前に
自分の愚かしさにぐったりしたのであった。
この森の奥のほうに、主のような大木があって、その場所はだ~れにも
言えないのである。誰にもみつからず、大きくなったんだから。
そっと近づいてその前にじっと立つ。一本で立っている樹はでも独りでは
ない。森は編目を張り巡らしたようにつながり地中にも空にも続いている。
仰ぎみて、深呼吸して、帰ってくる。