保谷偏屈さんから歌劇「ローエングリン」の公開練習に誘われた時は、迷惑だったのである。
作曲したワーグナーは重厚長大音楽の最たるもの。指揮者のクリスティアン・アルミンクなんて聞いたこともない。それに、場所が墨田区殺風景錦糸町だ。
だが、先日の世田谷美術館への素敵な緑道や、桜新町の「サザエさん美術館」を案内してくれた。
それで、仕方が無いから付き合った。まあ、寝てればいいか、と。
会場の「すみだトリフォニーホ-ル」はJR錦糸町駅から近い。
客席数1801の本格的大ホールである。
壁面は焦げ茶色の重厚な板壁。2・3階席は白い手摺部分と共に、斜めに舞台に向かって突っ込んでいる。さながら沈没寸前のタイタニック号である。天井は味も素っ気も無く構造。正面のパイプオルガンの真上にはは亀有交番の紋章。ホールを内蔵している「アルカタワーズ錦糸町」の外観は立派だが、内装は錦糸町である。
歌劇「ローエングリン」は開業10周年記念公演で、オーケストラピットが無いから、コンサートオペラ形式での上演になるそうだ。歌手が芝居をしないで、舞台に横1列に並んで、突っ立ったまま歌うという、あれです。
舞台には既に「新日本フィルハーモニー交響楽団」の団員たちが、奇音を勝手に発していた。
全員が私服。老舗のN響に較べると、大幅に若い団員。私服になるとアンチャンネエチャンである。
指揮者はクリスティアン・ミンク。チラシに載っている写真は立派。しかし実物はツンツルテンのユニクロのTシャツに細くて短いGパン。まるで藪蚊のようで貫禄ゼロ。団員と年齢もおつかつであろうか。
楽器の配置がちょっと変っていた。チェロ群が左翼にいる。金管群が右翼に出て来ている。ティンパニーは右奥だ。後方はひな壇があって、椅子が8脚、横1列に並んでいるが、誰もいない。
練習開始前に、指揮者から挨拶があった。滑らかなドイツ語で、平日こんなに大勢の人が来てくれて光栄である、という意味らしい。指揮者は日本に何回も来ている俊英らしい。知らないのは森男がモグリだったのだ。
以前の大野和士君が指揮した時は、若い女性が大勢いた。今日はハゲと白髪が多く、客席は8割の入りだ。
日本人の、あれは何者だろうか、指揮者の後ろ(つまり前、ややこしいね)で譜面(?)を前にして、最後まで指揮者を監視をしていた男の説明によると、今日が練習初日。しかも新しい楽譜。誤植が多いと思う。訂正しながら練習をする、と言う。ワーグナーは随分前にこの曲を作曲しているというのに、誤植があるとは、譜面屋は怠慢である。
練習が始まった。良い。実にいい。ワーグナーはやはり大作曲家だった。
木管が中心になり、金管と柔らかく旋律を奏でる。低音の弦がそれを引き立てる。ワーグナーって、意外にもメロディアスだったのだ。感じは、そう、「春はあけぼの、ようよう春めきたる.....」の早暁の雰囲気。うっとりとお目覚めである。
練習は円滑に進み、「走り過ぎないように」という指示があったくらいで、楽譜に誤植があった(?)のは数箇所のみだった。ほんとにいいのかね?
後半、空席にトランペットのGパンニイチャン達が着席した。1人欠席である。
春の曙は明けて、今度は大海原と海戦だ。トランペットを中心に、ホルンやチューバやトロンボーンが咆哮する。弦楽器群も慌しく弾薬を補充する。ホールは爽快な音響に満たされて、目は、耳はパッチリで、実に良い気分。
指揮者は、細い身体ながら威厳が出てきて、しかも、驚いたことに、今日は予算の関係か、欠席している歌手6人分の歌を、一人で歌ったのだ。
客席に尻を向けて歌っているので、意味は分からないが(こっち向いても分からん)、美声なのだ。
更に驚いたことは、この曲、歌劇だから、オーケストラは伴奏のはずなのに、歌手が歌わなくても、十分に美しい旋律なのだった。
ワーグナーを見直さなければならないと思ったが、今日は練習で、歌手がいない。しかも、細切れの演奏だったのが効を奏したのかもしれない。
音楽はワーグナーでも堅苦しく聴くものではなく、音を楽しむものだ、とまた思った。
ところで、トランペッターのアンチャンは態度が悪い。後半からの参加なのに、着席したままで勇壮な曲を吹く。あそこは全員起立すべきでしょう。
しかも、緑のジャンパーは途中、勝手に離席して、暫くしたらタオルにペットボトルを隠して持ち帰った。ひと風呂浴びて帰って来たように。
欠席者や離席者は厳重に処罰せよ。
実は、以前、大野和士君の公開練習でも、1人遅刻、1人早退した。
新日本フィルは楽団崩壊しているのではないだろうか?
それとも、自民党の中川幹事長に、人事課長をお願いしなければならないのだろうか?それは悲しい。
以上、歌手のいない歌劇の、練習初日を批評するという、プロの批評家なら尻込みすることを、森男は敢行した。記事はワーグナーのように長くなった。
ホール、指揮者、楽団員の方々、並びに「林住記」読者の方々には、ご迷惑だったかも知れない。
お詫びに、チラシを掲載します。
なお、燕尾服を着れば、指揮者も団員も一流です。歌手は保証しませんがね。
歌劇「ローエングリン」も素晴らしいのでした。
1801席の大ホール
パイプオルガンのエンブレム
♪最終楽章 ホールと楽団のHPは、まさに「名器」です。是非ご覧下さいね。
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