一輪の藪椿、
3月、三寒四温を繰り返しながら春めいて来るこの季節、谷間の日当たりのいい斜面に群生している藪椿が咲き始める。
余り人の訪れることの少ない沢筋に咲く藪椿は一部の人にしか知られず、いつもひっそり咲いて、一輪の熟れた花をひとつまたひとつ落としながら、朽ち葉の器に活けるように置いていく藪椿。
3月も半ばを過ぎた辺りから、私が歩く沢筋の朽ち葉の上に、熟れた一輪の藪椿の花が活けられ、そっと置かれ、ひとつの灯りとなって燈りながら最後の朽ちを待っている。
藪椿
藪椿の固い蕾
淡い期待を込めて膨らみ
いま谷間に咲く
この美
誰に見られることなく
机上で熟し、
落ちて原形を保ちながら朽ちる
藪椿の一花
花の咲きと散り
哀れととるか寂しいととるか、
その心中花のみぞ知る
いま
燦々と降り注ぐ陽射しに抱きしめられ
唇を求めるように輝き
激しい恋の末
捨てられる藪椿
独り寂しく朽ち葉のなかで泣き忍び
沈黙のなかを漂い
やがて色あせ朽ちる一花
いま
儚い恋に燃える。
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