巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
1970年の宮之森高校に通うようになって三週間ちょっと。
憧れの制服は大満足。
53年分のカルチャーショックは面白い半分、戸惑い半分。
で、ちょっと疲れてきたかなあ……
疲れの原因はいろいろなんだけど、地味に効いてきてるのがカレンダー。
原因は週六日制。つまり休みは日曜の一日だけ。
令和の公立高校は五日制で土日の二日が休みだよ。これだけは後悔。
お祖母ちゃんは「まあ、新入学だから仕方ないわよ」という。
まあ、それもあるんだろうけど、やっぱり日曜しか休みが無いのは苦痛だ。
小中の経験で慣れてしまったもんだから、無意識に連休を楽しみにしている。
「ええ!?」
誰かが気を効かして貼ってくれた掲示板のカレンダーを見て愕然とした。
「どうしたですか?」
「連休、ショボすぎ!」
「あ、ああ……憲法記念日が日曜と重なりましたからねえ……たしか、去年は日曜挟んで憲法記念日と子どもの日がきて三連休。ま、順列組み合わせですから」
「日曜と祭日が重なったら、次の日が休みになるもんでしょ!」
「親方の憤慨は理解できる」
珍しく十円男が近づいて来て同意する。
「でしょでしょ、みんなまとまって休みとれたら行楽地とか娯楽産業にお金が落ちてGDPも上がるのに!」
どこかで聞いた(志忠屋のマスターだったか、おじさん(大叔父)だったかが言ってた)受け売りを言う。
「お、親方、なかなか見る目がある」
「グヌ、じゅ……加藤高明に賛同されてしまった」
「しかし親方、GDPというのは間違いだ、GNPだ。ブルジョアが作った経済指標だが学術用語は正確に使わなくてはならん」
「どうでもいいけど、親方は止めてよね、相撲取りじゃないんだから!」
「親方だって、俺のことを十円と呼んでいる」
「呼んでないわよ、言いかけたけど言い直したでしょ」
「陰では読んでいるんだ」
「ウ……」
「まあ、俺は気にせん。次は地理の移動教室だ。お先にな」
「え、あ、そうだった!」
慌てて地理の一式を取り出し、ロコといっしょに本館の社会科教室に向かった。
途中、渡り廊下から学級写真を撮っているのが目に入った。
車寄せの円形花壇の大蘇鉄の前にお雛さんみたいに一組の子たちが並んでいる。
「この分だと、地理の途中で順番回ってきますね」
「うん、地理、退屈だからちょうどいい」
「うふふ」
ロコが同意の含み笑い。
授業も三周目に入り、好き嫌いが出てきた。その中でも地理はダントツだろうねえ。半分寝てるし。
1/3ほどが寝たところで写真撮影の呼び出しがかかった。勉強道具は置いたまま大蘇鉄の前に移動。
あ?
雛壇に並ぶのを指示しているのは写真屋さん、証明写真を撮ってもらった須之内写真館の感じのいいオネエサン。
「出席番号順、向かって右が男子、左が女子、前後で被らないように気を付けてくださーい」
先生も来てるんだけど、なんにもしない。ま、いいけど。
みんな並んで準備できたところに校長先生がお出ましになって、最前列の真ん中に担任とお並びになる。
「では、三回撮りますからぁ、いきますよぉぉ……」
カシャ
スタンド付きのカメラで二回、普通っぽいカメラで一回撮ってOK。
雛壇降りて気が付いた。
写真撮影の雛壇て、中学まではアルミの組み立て式で、上がるとギシギシ音がしたんだけど、ここのはギシギシしなかった。
で、よく見ると、前列は体育館のパイプ椅子。二列目は立ってるだけで、三列目は平均台を二台くっつけたやつ。四列目は古い教室の机だった。
「あら」
写真屋さんと目が合って、オネエサンが微笑む。
アハハ
まさか憶えてもらってるとは思わなかったから、間の抜けた笑顔を返してしまった(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 宮田 博子 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
- 須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館