大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・030『滝さん怒る』

2023-05-30 12:45:29 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

030『滝さん怒る』   

 

 

 お祖母ちゃんの機嫌が悪い。

 

 悪いと言っても、人や物に八つ当たりするわけじゃない。

 笑顔が消えてしまって声が小さくなる。

「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「ごはんですよ」「お風呂入ってしまってぇ」「牛乳飲んだぁ?」とか、なにげな言葉に元気がない。

 以前、機嫌が悪かったのは、お母さんがMSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)に行くことに決めた日だった。四年間も帰って来れないだけじゃなくて、家族とも連絡が取れなくなるんだから、機嫌が悪くなるのも無理ないと思った。

 

 お祖母ちゃんは、自分のことで機嫌を損ねることは、ほとんどない。

 

 お祖母ちゃんは、近しい人が不幸になったり、いらない苦労をさせられると機嫌が悪くなる。

 お母さんは「魔法少女はおせっかいだからね」と言って、ひそかに、あけすけに言えばバカにしていた。

 でも、娘が高校入試で、次に会えるのは四年後の成人式だからね。わたしも――たいがいにしてよねぇ――と思うんだけど、言ったら聞かない人だし「あ、そう」で済ました。

 お祖母ちゃんは、そういう孫娘がかわいそうで言ってくれたりしたんだ。

 それでも、お母さんの決心は変わらなかったから機嫌が悪くなった。

 今回は、その時よりも悪いかもしれない。

 

 魔法少女は上からの指令で、どんな任務でもこなし、時には「○○に代わってお仕置きよ!」と人をぶちのめしたりする。

 身分は特別職の公務員で、公安に似てるけど、ネットで検索しても出てこない。

 まあ、日本政府が魔法少女に頼ってるなんて言えるはずもないしね。

 定年を迎えてからも5年間再任用で働いて、それでも、時おり非公式にヘルパーを頼まれる。

 

「じぶんらなあ……」

 

 タキさんが、カウンターの向こうで腕を組んだ。

 カウンターには、アイ、マイ、ミー三人の猫又さんがうな垂れている。

 ペコさんは、滝さんに頼まれて商店街に食材を買いに行ってる。

「「「すみませんでしたあ!」」」

 三人揃って頭を下げる、六つの猫耳がそろって揺れる。

「猫耳はひっこめとけ、勘狂う」

 シュポン

 音がしたわけじゃないけど、こんな感じで猫耳が引っ込むと、空気がシリアスになる。

「応(こたえ)さんに頼むときは、俺にひとこと言え」

「「「はい」」」

「魔法少女いうのは、退職しても頼まれると弱い。もともと、そういう裏の仕事をやるのんが魔法少女やけどなあ、裏の仕事っちゅうのは、三つも四つも人づてに頼まれることが多い。それでも、現役やったら、上の方でチェックやら吟味やらしよるけど、退職後は、そういうチェックも吟味もでけへん。ひとりでこなせるのか、どこまでやってええのかも確かやない。うまいこといったらメデタシメデタシやけど、失敗したら、引き受けた応さんが一人自責の念にとらわれて落ち込むことになるんや」

「はい、マイもミーも上の上から頼まれて」

「アイ、お前もやろ」

「は、はい、三人とも揃って同じ依頼だったし、もうお願いするしかないって思って」

「それが怪しい、MS銀行、つくも屋、寿書房三軒同時に頼まれてくるいうのは揃いすぎやろ。三軒とも『他言無用』ときた」

「あの」

「なんや、代理、いやメグリ?」

「あ、ちょ……」

 こんなおっかない滝さんは初めて、言葉がつまってしまう。

「『失敗したのはわたしだから、ぜったい三人を責めないで』って、お祖母ちゃん言ってたですから……」

「責めてるんとちゃう。総括や、二度とこんなことが起こらんように。なあ!?」

「「「ハ、ハヒ(;゚Д゚)!!」」」

「だいたいやなあ……」

 もう一発かまそうと、滝さんが肩を揺すったところで、ペコさんが戻って来る。仕入れの荷物が多いようで、魚屋のニイチャンが荷物を抱えて入って来て、さすがに中断した。

 

 志忠屋に入った時、カウンターには1970年の新聞が載っていた。

 もう50年以上昔の新聞なのに、ついさっき配達されたばかりという感じで、開いた三面からはインクのニオイがした。

「五段目の小さい記事や」

 言われて読んでみると、ひとりの現役警察官が、ひっそり退職したことが書かれていた。

「あ、ああ……」

 わたしも、読んでから「あ」っと思った。お祖母ちゃんは「失敗したのはわたしだから、ぜったい三人を責めないで」とだけしか言ってなかったので、中身がぜんぜん分かってなかった。

 1970年の五月二週目に、若い男が連絡船をシージャックするという事件があった。犯人は、シージャックするまでに、もう何人も撃って、船でも人質をたくさんとって、100発以上発砲、何人も犠牲者が出たので、警察はやむなく狙撃手を配置して犯人を射殺した。

 その後、いくら犯人とはいえ射殺はやり過ぎだと、テレビや国会でも取り上げられ、射殺した警察官の人が辞職に追い込まれたというニュース。

「応さんは、犯人を射殺した警察官が辞めんでもええように、できたら、射殺じたい起こらんようにしてほしいと頼まれたんやそうや」

 え、ええ!?

 50年以上も昔の事件だよ。

「それがな、たとえ凶悪犯相手でも銃器の使用をためらうという風潮の元になったんや」

「そ、そうなんですか……」

 

 言葉が無かった。

 

 昨日の学校帰り。

 

 ロコが「こういうのは続きますねえ」と、電器店のテレビの臨時ニュースを見ながら言ってたけど、わたしもロコも立ちどまってまでは見なかった。ビートルズや中間テストに頭がいってたし、四月にはよど号ハイジャック事件があったばかりだったしね。

 家に帰ってパソコンで検索、事件のことは出てくるけど、犯人が撃たれる瞬間の映像は出てこない。令和の時代、人が死ぬ、殺される映像なんて、すぐにバンされる。

「ロコ、あの映像見た?」

 歩きながらロコに振ってみる。

「うん、観たよ」

「どうだった?」

「あ……うん、なんかドラマの一コマみたいな、カメラもロングだったしね……」

「そう……」

「それに、人が撃たれるところって、よく出てくるよ」

「え、そうなの!?」

「うん、写真とかはモロだし、ベトナムじゃ毎日ドンパチやってるし」

「え、あ……ベトナム戦争!?」

 そうかリアルベトナム戦争の時代なんだ(^_^;)

「そういうのもスクラップしてるから、見せたげようか?」

「あ、アハハ、ちょっと遠慮しとく」

 1970年のこんにちはぁ~(*^^)v♪

「だよね、それよりも万博行きたいねえ!」

 商店街のBGMが、俄かに耳に飛び込んでくる。

「こんにちは~こんにちは~♪」

「世界の国っから~♪」

 つい歌ってしまう。

「そうだねえ、ちょっと考えてみようか」

「あ、うん! 乗るよ! みんなで考えたらアイデア浮かぶかも!」

 あっという間に16歳の関心はジャンプした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:113『我が食のトラウマ』

2023-05-30 06:18:54 | 時かける少女

RE・

113『我が食のトラウマ』ブリュンヒルデ 

 

 

 大通りをヤコブの家に通じる道。その角を曲がった時からいい匂いがしている。

 
 ちょうど昼に差しかかっていたので、レストランかなにかがあるんじゃないかと思った。

 主神オーディンの娘に生まれたが、贅沢に育ったわけではない。

 父オーディンは元来放浪の神であるので生活は質素だ。ヴァルハラは大きくて立派な城だが、七歳まで父の事は城の管理人くらいにしか思っていなかった。むろん、平の管理人ではないが、せいぜい管理課長くらい。城にいる者たちも七歳までは名前のままブリュンヒルデとかヒルデの愛称で呼んでいた、ひどいのになるとブリと悪意のこもった呼び捨てだった。でもまあ、管理人の娘なら、そんなものだろうと疑うことも無かった。

 食事も城に仕える者たちといっしょ、当たり前のように大食堂で食べていた。大食堂はバイキング形式で、トレーを持って自分の好きなメニューを取る……というのは建前で、子どもが大人たちに交じって好きなものを取るのは至難の業。なんとなく子ども用大人用に分かれ、大人用でも戦士のテーブルとか女官たちのテーブルとか事務職のテーブルごとに集まる傾向があった。

 小さな子は大きな子が面倒を見てくれるので、知らず知らずのうちに大食堂での作法が身についていく。

 トール元帥の戦士たちが食べているのがとても美味しそうで、早く大人になって食べてみたいと、他の子どもたち同様にヨダレを垂らしていた。

 七歳になって王女の待遇になった。

 王女の待遇と言っても、呼ばれ方がブリュンヒルデから殿下に変わっただけと言っていい。改まった時に『ブリュンヒルデ殿下』とか『ブリュンヒルデ姫』とか、儀式の時は『天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花。ヴァルキリアの陣頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫』と伝統的尊称で呼ばれる。学校に上がって侍女が付くようになって、その侍女が融通の利かない奴で、呼ぶたびに尊称で呼ぶ。そのうえドンクサくて、しょっちゅう間違う。間違ったら言いなおしだ。登校前の忙しい時に五回も六回も言い直されると遅刻してしまう。じっさい遅刻してしまうんだけど「侍女のやつが、何度も言い間違えるからあ!」とは言えない。ただ「すみませんでした」と謝って廊下に立たされる。

 この侍女が交代すると言うので「誰でもいいけど、天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花。ヴァルキリアの先頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫とは呼ばない人にして!」とだけ注文を付けた。

 すると、次の侍女は「殿下」と簡単に呼んでくれる。

 いいっちゃいいんだけど、そのころ、よく便秘になって朝のトイレが長くなることがあった。すると、その侍女はトイレのドアを叩いて「殿下! 殿下! はやく! 殿下!」と叫ぶ。むろん「遅刻しますよ!」いう意味なんだけど、わたし的には「早く出んか!」に聞こえる。

 まあ、そんな少女期が過ぎて、なんとか姫騎士と自他ともに認められるようになって、大食堂でもトール元帥の戦士たちの列に並んで好きなものが食べられるようになった。

 

 で…………不味かった(-_-;)。

 

 憧れの騎士飯がこれかあああああ(╬•᷅д•᷄╬)……というくらいに不味かった。

 子どものころからの期待が大きすぎたせいかもしれない、わたしが早くにブァルハラを出ることになった原因の一つは、この大食堂の不味さにあることは確かだ。

 そういう食の原体験があるせいか、ヤコブの家から漂ってくる美味しそうな匂いは凄まじかった!

 グ~~~~~~~~~~~

 四号の乗員全員のお腹が鳴ったぞ。

 この香り、この匂い……クンカクンカ…………もし、ヴァルハラの大食堂の時みたいに食べたらぜんぜん違った! ということになれば発狂するぞ~!

 
☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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