大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・026『レット・イット・ビー』

2023-05-10 14:45:32 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

026『レット・イット・ビー』   

 

 

 二か月ぶりに寿橋を渡る。

 

 ここんとこ、学校に通うために戻り橋しか渡ったことが無いので、リアルというか現実の橋を渡るのは久々。

 橋を渡っても21世紀の令和だというのは、かえって新鮮。

 

 しばらく歩いて銀行の角を曲がったビルの一階が志忠屋。

 

「いらっしゃいませぇ……いやあ、久しぶり(^▽^)」

 ペコさんが不二家のマスコットそっくりの笑顔でカウンターを指さす。

 ランチタイムもそろそろ終わりなんだけど、空いてるのはカウンターの席二つだけ。

 他の四人掛けとかは、尻尾を出したり耳を出したりの妖さんたちがランチを掻っ込んだり、アフターのコーヒーを楽しんだりしている。

「たまごスパ大盛りで、アフターはレモンティーお願いします。で、あとでこれ」

 レコードのジャケットを見せると「おお」ってマスターが横目で了解。

「あ、お嬢さま!」

 声がかかったかと思うと、四人掛けのOLさんたちが気をつけした。

「あ、ああ、こないだの?」

「はい、応さまにはたいへんお世話になりました!」

「わたし、MS銀行のアイです!」

「つくも屋のマイです!」

「寿書房のミーでございます!」

「あ、どうも(^_^;)」

 三人とも猫又さんで、お祖母ちゃんと縁の有りそうな感じだけど、一回会っただけだから返事のしように困る。

 ヒソヒソヒソ……三人で、また話し始めるし。

「巡お嬢さま……」

 一番落ち着いた感じのミーさんが、音もたてずに横に来る。

「は、はい」

「不躾ではございますが、応さまにお手紙をお預けしてよろしいでしょうか」

「あ、は、はい」

「では、これをお願いいたします」

 ミーさんが差し出したのは、時代劇に出てきそうな紙で包んだ手紙で『上』とだけ書かれている。

「では、失礼いたします」

 ピューー!

「へい、おまち」

 呆気に取られて、三人が消えていったドアを見ていると、お目当てのたまごパスタがカウンターに置かれた。

 ドアの方ではペコさんが札を準備中に変えている。

「ペコもテーブル片づけたらお昼にしい」

「はい、ありがとうございまーす」

「で、なんのレコード買うたんや?」

「あ、これです」

「ほほう……ビートルズか」

 そう、今日のお目当てはレコードプレーヤー。お祖母ちゃんが電話してくれて、マスターのお店でかけてくれることになった。

 ごっついマスターが意外な優しさでレコードを扱うのがおもしろい。

「レコードっちゅうのは、ちょっと傷ついただけでオジャンやからなあ……レット・イット・ビー……B面はユー・ノウ・マイネーム……これは知らんかったなあ……」

 

 プチ…………

 

 マスターが、これまた、すごく繊細な手つきで針を下ろすと、温もりのある、なんか湯気がホワホワたつような音が続く。

 十秒ほどピアノの前奏……レット・イット・ビーなんて聞いたことなかったけど、この前奏を聞いただけで――あ、知ってる!――頭の中で電気が灯る。

「いいですねえ、ビートルズ……とくに、レット・イット・ビーが最高です……」

 ペコさんもまかないのパスタを食べながらシミジミ。

「オレ、これ聞きながら万博の工事現場で働いとった……」

「わたし、幼稚園に入って、自分が魔法少女だって分かって、ショックだった年です……」

 え……二人とも幾つなんだ(^_^;)?

「いい曲だとは分かるんですけど『レット・イット・ビー』って、それはBでいいよ? ですか?」

「せや、世の中Aなんて高望みせんとBくらいのとこでええんや、いや、Bこそ真実……ちゅう意味やなあ……」

「なるほど……」

「だめですよ、高校生にウソ教えちゃア」

「ええ、違うんですかぁ!?」

「ウソちゃう! オレ的にはこういう意味なんや」

「ほんとはね『そのままでいい』とか『なんとかなるさ』とかって意味なのよ」

「え、ああ……」

「しかし、レコードの音てええもんやなあ……」

「はい、なんか温もりがありますねえ……あ、ちょっと生意気でした」

「ううん、そう思う人多くなってきたわよ。アメリカじゃあ、レコードの売り上げがCDを追い越したって」

「え、そうなんだ!」

 ちょっと、自分の感性に自信を持った。

 

 それから、1970年の学校やらの話をして、お店のアイドルタイムをぜんぶ使わせてしまった。

 タキさんもペコさんも楽しかったって言ってくれたけど、これからは気を付けよう。

 

 家に帰って、預かった手紙を渡す。

 お祖母ちゃんは――あ~あ~――って感じで天井を仰いだ。

 直感でレット・イット・ビーの精神が浮かんで、なにも聞かずに自分の部屋に戻ったよ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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せやさかい・407『バンシーとリャナンシー』

2023-05-10 10:16:16 | ノベル

・407

『バンシーとリャナンシー』ソフィー   

 

 

 愛用のホンダで宮殿を目指している。

 

 ついさっきまで、王室病院で詩(ことは)さんを見舞っていた。

「……あの子の枕もとに何かいるみたいなんです」

 詩さんのお母さんが、そっと教えてくれた。

 ハッとして、詩さんの枕もとに目を向けると、バンシーとリャナンシーのシルエットが見えた。

 バンシーは人の死を予告する妖精、リャナンシーは愛を囁く妖精。

 二人とも道路標識の妖精のシルエットで、まだ本性を現していない。

 霊感の無い人には見えない。勘の鋭い人には気配が、魔法使いには気配を消していても分かってしまう。

 そして、わたしは王女のガードであると同時に王室魔法使。

「カーテンが揺れて、日差しが揺れたんでしょう……ほら」

「あ、ほんと、レースの影がそう見えたんだ。ごめんなさい、変なこと言って(^_^;)」

 軽い暗示をかけてごまかした。二人の妖精も気づいていない様子だ。

 

 なにも無ければ、お見舞いで済まそうと思ったが、そうはいかなくなった。

 その足で病室を出て王宮を目指した。

 

 王宮も王室病院もヤマセン湖の畔に立っていて、厳密に言うとヤマセン湖とその周囲は王宮の敷地。

 今は、大半が国立公園に指定されている。通行や立ち入り制限が王室領と国立公園のそれと似ているので、そういうことにしてある。

 公用車以外の自動車の乗り入れは、一部を除いて禁止されている。

 わたしが乗っているホンダは660CCのアクティー、つまり軽トラックだ。

 ミッドシップで安定性は抜群、リッター18キロの燃費で、なによりも小回りがきいて可愛い。

 ボスのジョン・スミスはケッテンクラートというキャタピラ式のバイクを使っていたが、ナチスドイツの軽車両。

 本国任務になって、ボスはシュビムワーゲンを勧めたが、王宮に二台もナチの車両があるのは問題だ。

 

 トントン

 

 ノックすると「お入りなさい」と陛下のお声。

「失礼します」

「来ると思ったわ」

「陛下も?」

 これだけで通じた。

 陛下もご存知なのだ、詩さんの枕もとにバンシーとリャナンシーが来ているのを。

「事は急を要します」

「そうね、バンシーが居たんじゃ放ってはおけない……それもこれも、わたしが……」

「陛下のせいではありません、詩さんを病院に搬送するときに、魔法で信号を青にしてしまいました。その魔法の痕が呼びこんでしまったんだと思います」

「そうなの、でも思い詰めないでね。そのお蔭で初期治療がうまくいったんだし。コトハ自身もそういう感覚が鋭いようだし……鋭くさせてしまったのはわたしかもしれない……」

「陛下」

「あ、ごめんなさい。用件は、あれかしら?」

「はい、国王と国家の一大事にしか使ってはいけないものですが」

「いいわよ、十分、国王と国家の一大事です」

 そうおっしゃると、陛下は「よっこらしょ」と腰をお上げになる。

「陛下、今回は王女殿下にお願いしようと思います」

「え、でもヨリコは初めてよ、レクチャーもしていないし」

 コンコン

「お入りなさい」

「失礼します」

 入ってきたのは、メイド長にして女王秘書であるサリバンさんと付き従うメイド。メイドは王家の紋章の入った車付きの箱を押している。

 ガチャガチャ……箱の中で音がする。

「クィーンズアーマー!?」

 思わず口走ってしまった。

「そうよ、デーモンズホールに入るには、これくらいの武装が必要でしょう」

「バトルになるとは限りませんし、バトルにはしません」

「あらそう……」

「殿下には扉を開けていただくだけです、魔法石はわたしが一人で取りに行きます」

「でもね……」

「ありがとう、ソフィー」

 サリバンさんにお礼を言われて、わたしと王女殿下の冒険が決まってしまった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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RE・かの世界この世界:093『ノルデンハーフェンを目前に』

2023-05-10 06:04:16 | 時かける少女

RE・

93『ノルデンハーフェンを目前に』テル 

 

 

 

 世界そのものが巨大な生き物なんじゃないかと思うようなニオイがしてきた。

 
 これまでも、街道には街道の草原には草原のニオイがした。

 でも、それは土のニオイであったり、草いきれや花の香りという、世界の中に存在しているあれこれのニオイが混ざったものにすぎない。

 しかし、海のニオイというのは圧倒的で、もう世界そのものの体臭のように迫って来る。

 かと言って目の前に海が広がっているわけではない。

 ムヘン最大の港町であるノルデンハーフェンは眼前のささやかな峠を超えたところで見えてくるらしい。

 この世界に来て海を見るのは初めてだ。

 ムヘン川にもエスナルの泉にも水はあったが、こんなに圧倒されるようなものではなかった。

 
 ガクンガクン

 
 咬み合わせが悪くなった歯車のような音をさせたかと思うと、つんのめるように四号は停まってしまった。

 ブルンブルン……ブルンブルン……

 タングリスがイグニッションを掛け直すが、一瞬身震いするだけで四号のエンジンはストップしてしまう。

「エンジンの具合が悪いのか?」

「どうも、この四号は海が嫌いなのか、潮の香りがしてきたとたんに故障のようです」

 そう言うと、タングリスは操縦手ハッチを開けて車外に飛び出した。車体をめぐる音で後ろのエンジンハッチに向かったことが分かる。

「ロキ、操縦席にまわれ、ケイトとテルは手伝ってくれ」

 ヒルデは車長らしく指示するとキューポラから飛び出した。

「ムー、わたしは?」

 指示のなかったポチが一人前にむくれる。

「ポチは上空で警戒に当たれ、それでいいよね、タングリス?」

 ロキが咽頭マイクを喉に押し付けて聞くと――ああ、それでいい――とレシーバーからタングリスの声。ポチは「わかった!」の一声を残して、四号の上空へ飛び上がっていった。

「キャブレターか点火プラグか……」

 タングリスはトラブルの原因を絞り込んで調べ始める。

「我が魔力をもってすれば一瞬で直せるであろうが、安直な解決は先々への禍根になるやもしれず、残念だが見守っておることにするぞ」

「残念がらなくてもけっこうです、二人一組になって足回りのチェックをお願いします。ゲペックカステンの中に点検用のハンマーが入っていますから」

「そ、そうか、しかたあるまい」

「ヒルデ、休む気満々だっただろ」

「うっさい!」

 ケイトに指摘されると、手にした野戦用レーションをハンマーに持ち替えて目配せする。

「はいはい」

 その成り行きで、わたしはヒルデと、ロキはケイトと組んで四号の左右に分かれて点検にかかる。

 
 戦車の点検はSLのそれに似ている。目視で異常がないかを見ながら柄の長いハンマーであちこちを叩いていくのだ。

 
 カンカン カンカン

 四号の左右で小気味いい音が響く。

 しかし、四号の足回りは音の割には良くなかった。

「履帯のピンがヘタって切れそうなのがあるなあ」「転輪のボルトが欠損してるのがある」「履帯も新旧取り混ぜ……限界のがある……」

 真剣に見ると、あちこち心もとない箇所が発見される。その間にタングリスは十二個のプラグを全部外し、半分以上が寿命であるとため息をついた。

「この路上では修理しきれんなあ……」

 タングリスを囲んで、みんなが腕を組む。タングリスというのは、こんな苦境にあっても美しい奴だ。眉間に刻まれた皴でさえチャームポイントに見えてしまう。

 

 へんなのが来るよーーーー!

 

 上空でポチが叫んだ。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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