大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・54『帝国キネマ撮影所 杵間所長・1』

2023-05-04 14:09:40 | 小説3

くノ一その一今のうち

54『帝国キネマ撮影所 杵間所長・1』 

 

 

 忍者の性で直ぐには入らない。

 

 スス……

 

 一度右に、瞬間で左に重心を移し替えて走る。

 仮にわたしに目を付けている者がいたとしても、最初の右への動作に引っ張られ、わたしが消えたように見える。

 忍者がドロンと消えて見えるのは、たいていこの手にひっかかっている。忍者が化けたり消えたりするのは、大方こういう錯覚を利用している。そうではない術もあるんだけども、それは秘密。

 撮影所の南辺に沿って走る。

 南側は緩い下り坂になっていて、150メートルほど行ったところで低い崖。

 崖の縁に塀が伸びている。塀に沿って200メートル。

 切れて右側が上り坂。上って150メートル。突き当たると長瀬川で、そのまま南に走って、もとのゲート前。

 ざっと30000平米、大き目の高校、小振りの大学程度の広さ。

 所々で、電柱や木のてっぺんに上がって様子も見た。

 二階建ての本館が東西に延びて、ゲートに至る所で「L」の字に曲がって、曲がった角のところが正面玄関。

「L」の字に向き合うように二棟の大きなスタジオ。

 上空から見れば「に」の形に見えるだろ。

 その「に」の字の内側も外側にも気配が無い。

 撮影所なら、たとえ休みでも、道具を作ったり照明の仕込をしていたりするだろうに……ここから先は入ってみなければ分からない。

 

「こんにちは……すみませ~ん……」

 

 玄関入った受付で声をかけるが、受付の中は弱く点けられたストーブの上でヤカンが湯気を上げ、掛け時計がコチコチ鳴っているだけ。

 しばらく覗き込んで振り返ると『第一スタヂオに居ります 杵間(きねま)』の張り紙。

 壁の『第一スタヂオ⇒』の案内に沿って「に」の下の横棒にあたる第一スタヂオ向かう。

 巨大な格納庫という感じ。

 正面が大きな引き戸式の扉。扉には『第一スタヂオ』と白ペンキで書かれていて、『第一』の下にドアがある。ドアの上には『撮影中』の赤ランプがあるんだけども灯ってはいないから大丈夫なんだろう。

「失礼します……」

 小さく声をかけて中に入る。

 甲府城の時と同様、片目をつぶって慣らしておいたんだけど、スタジオの中は真の闇で役に立たない。

 令和の時代なら『非常口』のランプぐらいは点いているものなのだけど、スタヂオと旧仮名遣いで書くぐらいだから、そういうヤボはしないのか。

 敵意も殺意も、人の気配さえ感じない。

 忍者になって半年、こういう気配の無さはかえって要警戒なんだけど、あえて力は抜く。

 おそらく杵間さんは、この闇のどこかに居る。

 

 カチャリ

 

 音がしたかと思うと、スタジオの床に光の柱が立った!

 思わず後ろに飛び退ると、光の根っこから人影が上がってきた。

「あ、これは失礼しました」

 人影が口をきくと同時にスタジオの常夜灯が灯って、地下の点検口から人が上がってきたところだと分かった。

「すみません、声はかけたんですが無断で入ってきたようになってしまいました」

「いえいえ、守衛室にいたんですが、スタヂオの電気点検が残っていたのを思い出しましてね。昭和五年の火災は漏電が原因でしたので思い出すと居てもたっても……いや、失礼しました。所長の杵間です」

 ハンチングを脱いだ顔は声よりも老けていたが「さあ、こちらへ」と入り口に進む足腰は少年のように軽やかだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

 

 

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RE・かの世界この世界:087『エスナルの泉の秘密』

2023-05-04 05:52:51 | 時かける少女

RE・

87『エスナルの泉の秘密』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 そうですか……ここがエスナルの泉でしたか……

 
 すっかり元気を取り戻したミュンツァー町長がしみじみと言う。

「ムヘン街道から東へはめったに行かないもので……むろん、エスナルの泉は初めてです」

 石化してからここまでの記憶は無いので、テルとタングリスが説明してやったが、さすがに町長を務めるだけのことはあって理解が早い。テルもタングリスもここに来るまでの苦労は語らない。

 わたしならいっぱい言うぞ、町長の事がなければ、ムヘン街道を北進して、今頃はノルデンハーフェンから船に乗っているところだ。

「しかし、ここまで来るにはご苦労があったんじゃないですか? 町の外に出ただけでクリーチャーに出くわすようになりましたし、ましてムヘン街道の東は魑魅魍魎の世界と言われています」

「こうやってみんなが揃っているのが答えです、あまり気にされるな」

 くそ、タングリスは、こういうところでも大人だ。

「その妖精さんは?」

「ああ、ロキが連れていたシリンダーの変異体です」

「ヘンタイじゃないもん!」

 聞き違えたポチが文句を言う。みんな穏やかに笑ったりして! くそ、シリンダーのくせに可愛じゃないか!

「シリンダーの変異体とは創世記に書かれている以外には、トール元帥の聖戦に二つほど例があるだけです、いずれも幼生のうちに心が通い合い、その上に共に激戦を経験しなければならないとか……あなた方も、それだけの戦いを……どうも大変なご迷惑をかけてしまったようです」

「頭を上げられよ、こうして全員無事なのですから」

「そうですね。わたしも良い体験をしました、こうして泉の恩恵をこうむるとは……トール元帥の聖戦では、傷ついた神々や兵士がここで傷を癒されたとか、幼いころに司祭のお説教で……うる憶えですがな」

「しかし、泉の効能もすばらしいが、景色の良いところですね。周囲の木々や岩など専門の庭師が設計したような美しさだ」

「たしかに……」

 町長はタングリスやテルと共に泉を見はるかす、なんだか、温泉のCMにそのまま使えそうな風情だ。

 あまりの穏やかさにウトウトしかける……。

「……いかん、ここを直ぐに離れなければ!」

 町長の叫びで、熟睡する寸前で目が覚める。

「フワ!?」

「え?」

「あ?」

「どうしたんです!?」

 なにかに怯えたように町長は後ずさり「早く逃げて!」と叫んで山への道を駆けだした、放っておくわけにもいかず、我々は町長を追って山道を峠の向こう、泉が見えなくなるところまで逃げた。

 
「こ、ここまで来れば大丈夫でしょう……」


 泉で石化が解けた町長は、効果が効きすぎて陸上選手並みの脚で駆けてきたのだ、追いかけた我々も息が荒い。

「ど、どういうことなんだ、町長?」

 目が回りそうだったが、タングリスとテルばかりじゃ面白くない、苦しい息を堪えて聞いた。

「思い出しました! 殿下、エスナルの泉というのはクリーチャーの一種なんです!」

「「「「「クリーチャー!?」」」」」

「はい、傷ついた者を癒すのは、癒したうえで形のいい木々や岩石に変えて、自分の身を飾るのが習性なのです。心地よさにグズグズしていると、ご覧になったような岩や木々に変えられてしまいます」

「そうだったのか!?」

「危ないところだったんだな」

「ん? ロキの鼻……」

 なんとロキの鼻はピノキオのように木になって伸び始めているではないか!

 セイ!

 テルがすかさずソードを抜いて木になったところを切り落とした。

「えーと……お礼を言わなくっちゃならないんだろうけど、オレの鼻は、もうちょっと高くなかったっけ?」

「いやいや、そんなもんだ。さ、日も暮れる、みんな四号に戻るぞ」

 
 五人乗りの四号に六人はギュウギュウだったが、なんとか乗り込み、一路ムヘン街道を目指して走り出した。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:5000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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