巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
小中学校では毎朝の朝礼があった。
登校して、時間になると担任の先生がやってきて、日直の確認やら諸連絡。
小学校では、そのまま一時間目の授業になって、中学では担任が帰った後一時間目の先生がやってきて授業になる。
ところが、1970年の宮之森高校は、その朝礼が無い(^0^;)。
みんな真面目だから、五分前には自分の席に座ってる。当然机の上には一時間目の用意。
ときどき予鈴が鳴ってから教室に入って来る子もいるけど――遅れたあ!――という感じでサッサと用意する。
人生斜めに生きてるような10円男でも、授業そのものに遅刻することは(いまのところ)無い。
そして本鈴が鳴って、平均すると1~2分で先生がやってきて、目出度くその日の授業が始まる。
国語の杉野先生は遅く来て早く終わる。
高校の授業って50分なんだけど、杉野先生の授業は40分あるかないか。
まあ、いいけど。
今日の一時間目は、その杉野先生の現国だ。
そろそろ5分というところで、廊下で気配。
杉野先生が、後ろのドアからオイデオイデをしている。
後ろの子が気づいて――なんですか?――すると、その子にゴニョゴニョ言って、その子が委員長の高峰君に声をかける。
高峰君が廊下に出ると、なんだかヒソヒソ話。
十秒くらいで話が終わって、戻ってきたのは高峰君一人。
「一時間目は杉野先生の御都合で自習になりました、各自静かに自習しておくようにとのことです」
え? ええ? という空気が広がる。
いきなり自習と言われてもどうしていいか分からない。なんせ、入学以来初めての自習。
現国でなきゃだめなのかなあ……他の教科でもいいよね……本読んじゃだめなのかなあ……そういう真面目な戸惑いが、微笑ましく広がる。
自習って言えばスマホでしょ! この時代じゃ手鏡にしか見えないんだし!
でも、さすがに教室では憚られる。
ロコや佳奈子のとこに行っておしゃべりしたいけど、席を変わるどころか立ち歩く人もいないしねえ……と、思ったら10円男が居ない。
どこに行ったんだ?
で、三分ほどで帰ってくると、なにやら高野君に話している。
なにか説得してるみたいなんだけど、高野君はにこやかに首を振って、10円男も自分の席に戻った。
「ねえ、高野君になに言って……ていうか、抜けてどこに行ってたのよ?」
休み時間に聞いてみる。
「杉野の自習はヤミだ」
「イヤミ?」
「ヤミ」
「闇?」
「モグリだ」
「なんで?」
たしかに杉野先生は度のきつい眼鏡で、笑う時に前の歯が二本目立つとこなんかモグリ⇒モグラってのを連想する。
「正規の自習は教務の黒板に書かれるんだ。全クラスの授業時程が升目になってて、教務が把握してるものは、ちゃんと書かれる」
「そうなんだ」
「で、他の教科の先生が空き時間だったら、交渉して授業をやってもらう」
「え、どうゆうこと?」
「つまり、六時間目の地理、高橋だろ。だから高橋に一時間目に来てもらったら、五時間目が終わった時点で帰れる」
「ええ、そうなの!」
わたしの声が大きかったのか、お仲間が集まってきた。
「それで、高橋、高橋先生に交渉に行ったんだ」
「どうだったんですか!?」
ロコが身を乗り出してきた。
「『ほう、加藤、今年は委員長か』ってイヤミ言われた」
「そうか、それで、高峰君に言ってたんですね」
「いやあ、委員長も知っててね、そもそも正規の自習じゃないから入れ替えは不可だって。もう一時間目に食い込んでたし、まあ、御節ごもっともではある」
「じゃあ、朝、職員室の前で確認した方がいいわねぇ」
たみ子さんが腕組みする。副委員長として期するところがあるようだ。
「お、頼もしいなあ」
「さ、次は芸術だから移動しよう」
真知子さんが理性を取り戻して、二時間目の美術教室に向かった。
間抜けなお話を一つ。
映画の帰りにレコードを買ったんだけど、うちにはレコードプレーヤーが無かった!
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 宮田 博子 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
- 須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館