巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
明日から中間テスト。
中学でも定期考査はあったから、とくに新鮮というわけじゃないんだけど、日に二時間しかないというのは嬉しい。
それに、高校の教科は細かく分かれてる。
あ、こんな感じ。
現国 漢文 古文 数Ⅰ一A 数Ⅰ一B リーダ グラマー 地理 地学 生物
他にも、保健体育 家庭科 芸術 なんてのがあるけど、とりあえず中間考査をやるのは上の教科から漢文を除いた9教科。
日に二時間しかやらないから、五日間ずっと中間考査。
中学じゃ三日間で、日に三教科とかあったからちょっと余裕。
「というのが落とし穴なのよ」
と、指を立てるのは真知子さん。
「一学期の中間テストってむつかしいわよね」
マナジリを上げるたみ子さん。
「うん、最初はカマシテくるわよ、どの教科も」
「ええ、そうなんですか?」
ロコは早くもビビってる。
「先週、二年生の追認テストやってたでしょ」
「ああ、見た見た! 数学と英語なんて、教室二つ使ってたよ!」
「たみ子も見たんだ」
「うん、帰ろうと思ったら二年のフロアーが賑やかなんで、見に行ったら『追認考査中につき静粛に』って張り紙がしてあった」
「笑っちゃうわよね、静粛にって貼ってあるけど、受けてる二年生の方が騒がしいんだもんね」
「真面目に受けてないんですかぁ!?」
「いや、さすがにテスト始まったら静かになったけどね」
「あはは、分かるなあ……赤信号みんなで渡れば怖くないって、あたしも、その口だもんね(^_^;)」
ピシャピシャとオデコを叩く佳奈子。
「え、なにそれ、面白~い」
「あ、駅前の交差点、ギリの時間だったら赤信号でも渡っちゃうし」
「ああ、またギリギリで来てるんだ佳奈子」
「なんか、二三年はゆっくり来てるしぃ」
「佳奈子、やっぱり部活に入った方がいいわよ。あんた堕落したのはバレー引退してからだったし」
「あ、いや、それはね(^△^;)」
「ふたり、同じ中学だったの?」
「はい、お二人は同じ谷口(やとぐち)中学です」
「ロコは情報早いねえ!」
「あはは、学級日誌持っていったら先生の机に住所録のゲラが置いてあって」
「え、そんなの見ちゃったの!?」
ちょっとぶったまげた! 個人情報を盗み見るなんてヤバすぎ!
見る方も見る方だけど、生徒の目に留まるとこに置いておく先生も常識ない!
え?
わたしの剣幕に、他の四人は、ちょっと意外な反応。
「メグリ、事情があるんだったら言いに行った方がいいわよ。たぶん、テスト明けには配られるから」
「配るって?」
「住所録、中学でも配られなかった?」
え、個人情報配っちゃうの!?
「え、あ……ああ、そうだった、かな?」
「でも、隠しちゃうと余計目立つと思う」
「いやいや、ド忘れしてただけだし(^_^;)」
「ですよね、緊急連絡するのに必要ですもんねえ」
ロコが指を立て、みんなが頷く。
そうか、スマホが無いから、一斉連絡とかできないんだ。
恐るべし、昭和の常識(;'∀')。
「あ、そろそろ帰らなくっちゃ! もう一時間も喋ってるよ、わたしたち!」
真知子さんが気づいて、やっと学校をあとにした。
定期考査前日は午前中授業でおしまい。で、思わず五人で喋り込んでしまった。真知子さんが言ってくれなかったら、夕方まで喋っていたかもしれない。
帰り道、スマホで検索。
『赤信号みんなで渡れば怖くない』は80年代にツービートで漫才やってた頃にビートたけしさんが流行らせたギャグらしい。佳奈子は生活実感から思わず出てしまったんだろうけど、案外、漫才師に成ったら大成するかもと思った。
1970年5月と打ち込む。
1日、米軍がカンボジアに侵攻。
そうか、この時代ってベトナム戦争の真っ最中、それが拡大の様子なんだ。令和の現代ではウクライナで戦争の真っ最中。五十年たっても世界はあんまり変わっていない。
スクロールすると、先月の24日には中国が初の人工衛星の打ち上げに成功していた。
ふと見たガスタンクは目いっぱい高くなって、奥宮駅に着くまでにレット・イット・ビーをワンコーラス聞けた。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
- 須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館