大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・050『妖怪くわせもの・2』

2024-06-02 11:31:14 | カントリーロード
くもやかし物語 2
050『妖怪くわせもの・2』 




 くわせものが飛び出してしまうと、食堂のドアも窓も開くようになった。

――しっかり掴まれ!――

 ミチビキ鉛筆が叫ぶ!

 わたしは右手で鉛筆を、左手で、その鉛筆を握る右手を掴んで前に突き出す。

 ピューーン!

 甲高い音をさせて、鉛筆は自動的に開いた窓からわたしを引っ張ったまま飛び出していく。

 やくもぉ!!

 別の窓から、ハイジとネルが顔を出してわたしを呼ぶ。くわせものの影響は長続きはしないようだ。

 ゴオオオオ!

 くわせものが旋回して食堂の窓を舐めるように低空飛行、食堂のみんなは悲鳴を上げて頭を引っ込める。やつは、渋谷の3D広告、サイネージっていうんだっけ。あそこの定番の三毛猫の首くらいの大きさになって飛んでいる。

 そんなに大きいと三毛猫でもおっかないのにピエロの顔だよ、あんなのが傍に来たらおしっこチビルくらいに怖いよ。

 グゴオオオ!

 こんなのどうやってやっつけるんだ……と、思ったら、鉛筆が勝手に動き出す。

「ウワア、あ、ちょ、ちょっとぉ!」

 鉛筆は、わたしを引っ張ったまま空中に字を書き始めた。

 鉛筆のくせに、太くておっきい字!

――ティターニアに手伝ってもらって!――

 鉛筆も自分一人じゃ苦しいんだ。

 え、え、どうするどうする(;'∀')

 空から見てても分かるくらい、地上のみんなも焦ってる感じ。

 みんな森の住人たちを敬遠してきたからね、自信が無いんだ。

 思い余って、ネルとハイジが窓枠に足を掛ける。あの二人は森の住人とも多少は近い。

 ムギュ!

 飛び出すかと思ったら、だれかに踏みつけられたようにペシャンコになる二人。みんなは妖に一発喰らったのかとのけ反るけど、やくもには分かったよ。

 デラシネが二人を踏み越えて森へ駆けていく!

 だいじょうぶかな、森のみんなとは、まだ和解できてないよぉ。

――かまうな、行くぞ!――

「鉛筆のクセにえらそー」

――おもいやりを構えろ――

「え、あ、うん」

 おもいやりは樺太旅行に行ったお礼にデラシネがくれたフィギュアのパーツみたいに小さな槍。これは破魔矢みたいな縁起物だと思ってた。あるいは――人にはおもいやりを持って――的ないましめ、あるいは、デラシネなりの感謝の気持ち的な。

――分析してる場合ではない、構えて!――

「うん!」

 うんとは言ったけど、鉛筆に掴まりながらはやりにくい。

――しかたがない……えい!――

 ガクン

 衝撃があったかと思うと、鉛筆は魔法使いのホウキほどになってわたしを乗せていく。

 ガツガツガツ! ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ!

 くわせものは結界に食らいついて食べ始めている。

「あいつ、自分でも食べるんだ!?」

――感心してる場合じゃない!――

「う、うん!」
 
 ビューーン

 鉛筆は旋回しながら速度を上げ、わたしは、アニメの勇者みたいに姿勢を低くして、くわせもののコメカミ目がけて突きかかる。

 プチュ

 少しは手ごたえがあるんだけど、やつが逃げる方が早い!

 くそ!

 やつが齧ったところはほころびが出ている。

 結界は外からの攻撃には強いけど、中から蝕まれると弱いんだ。

 ザザザザザーー

 下の方から音がしたかと思うと、無数の葉っぱが森の方から飛んできて、結界の傷口を覆って修復にかかる。

 そうか、これがティターニアたち森の住人たちの協力か。

 でも、補修だけでいっしょに戦ってくれるわけではないようだ。

 仕方がない!

「いくよ!」

――おお!――

 鉛筆といっしょに人馬一体という感じで追いかける!

 えい! とー! それ! そこだ! ウリャー! キエエエ!

 いろんな掛け声で、くわせものに襲いかかる!

 プチュ プチ プツ プシュ プチュ

 確実に手ごたえはあるんだけど、決定打にならない。

 小さな傷はすぐになおしてしまうくわせもの。

 だめだ、こっちが先にバテてしまう。

 五六回攻撃したところで息切れがしてきて、空振りが増えてくる。

 ドザザザザザーー!!

 ひときわ大きな枯れ葉のかたまりが上がってきたかとおもうと、それは、くわせものの背後で弾けて、中から大きな剣を構えたデラシネが現れた!

 セイ!

 ビシュッ! ドシュッ!!

 十文字に大剣を振るうとくわせものは大きく口を開けてのけ反った!

 かなり効いてる!

「トドメだ!」

 デラシネは空中で二回転すると、そのままの勢いで大剣を振りかぶった!

 ギャアアア!!

 断末魔の叫びをあげたかと思うと、くわせものは無数のポリゴンぽいものに分解し、消滅していった……。

 そして、消滅するくわせものに目を奪われているうちに、デラシネの姿も消えてしまっていた。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)049・地区総会・1

2024-06-02 07:41:51 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
049・地区総会・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 逃げ水の向こう、蜃気楼のように茶臼山高校が見えてきた。

 今日は高校演劇連盟の地区爽快なんだ。

 ちっとも爽快じゃないけど爽快……顧問の先生が啓介部長に送ったメールが『爽快』になってたからね。

 むろん『総会』の変換ミス、でも、みんなの頭には『爽快』でインプットされてしまった。

 爽快とは程遠いただ今の気温は32度もある。

「こういう逆説めいた表現は昔からあるよ」

 須磨先輩がジト目で言う。

「めっちゃ寒くて岩だらけの島を『グリーンランド』って呼んだり、戦ばっかりで人が大勢死んだり裏切ったりの時代の物語を『太平記』って名付けたり……フフ……」

 演劇なんてちっともしないクラブを『演劇部』……思ったけど口にはしない。先輩の目を見たら笑ってたから、きっと同じことを思っていたんだ。

 そろそろ33度になろうかという気温の中、電動とはいえ車いすはきつい。

 UVカットの帽子に日傘をさしているんだけど、車いすというのは健常者よりも地面が近い。33度というのは百葉箱の中だかアメダスとかの観測値で、照り返しのきついアスファルト道路の温度じゃない。体感気温は40度に近い。


 地区総会のことは昨日言われた。


「地区総会に行ってこいやてえ、顧問命令や」

 不貞腐れたように啓介先輩が言った。

 先輩は一人で行くつもりだったけど「おもしろいかも」という須磨先輩のノリで四人揃って行くことになったんだ。「茶臼山までは車出してもらえるらしい」ということだったんだけど、今日になって学校だか顧問の都合でアウトになり、地下鉄と徒歩で行くことになってしまって、グリーンランドや太平記を思い浮かべてるわけ。

 顧問の先生は用事があるとかで、付き添いは新任の朝倉先生。

 ザックリした先生で「大丈夫?」と二度ほど聞いてくれたけど、あとはほったらかされている。

 昨日今日の車いすじゃないからホッタラカシが気楽でいい。

 歩道なので一列になっている。

 先頭が朝倉先生。続いて小山内先輩、ミリー、わたし、須磨先輩の順序になっている。

 ミリーと啓介先輩は時々入れ替わるけど、須磨先輩とわたしは定位置になっている。
 茶臼山が近くなっても変わらないので、須磨先輩が人知れず介助をかってくれているのだと思った。

「すみません先輩」

「え、え、なにが?」

「介助してくださって」

「あ、え……あ、どういたしまして」

 そう言いながら、先輩は耳元に顔を寄せてきた。

「ちょっと朝倉先生苦手でね」

 え、なにがあったんだろ!?

「ドンマイドンマイ」

 校門を潜ると総会会場までは、要所要所に茶臼山の生徒さんが立っていて迷わないようにしてくれている。

 たった四人なんだけど目立ってしまう。

 四人がそれぞれに個性的なんだ。

 車いすのわたしは一番目立つ。視線が痛い。「がんばってるね!」感で見られるのは収まりが悪い。

 ミリーはブロンドのアメリカ人なのでやっぱ注目される。

 啓介先輩も、こういう場というか他校の生徒と比較できるところに来ると、意外にナイスガイに見える。とても、部室でエロゲばっかりやっているオタには見えない。

 そして、須磨先輩は六回目だったっけ……の三年生なので、アニメに出てくるお姉さまキャラのように魅力的だ。

 遅れてくる学校があるようで、定刻になっても地区総会は始まらない。

「お待たせして申し訳ありません、五分遅らせます」議長の生徒から声が掛かった。

 うん、遅れてもいいよ。

 会場の会議室はギンギンに冷房が効いていて、できたらこのまま昼寝したいぐらいに『爽快』なんだしね(^_^;)。

 すると赤いリボンの女子高の一団がわたしたちのところに寄って来た。 
  


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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