鳴かぬなら 信長転生記
グイィィィィ~~~~ッ!
琥珀浄瓶 (こはくじょうへい)の口に固く栓をする。
「猪八戒、芭蕉扇でこいつを宇宙のかなたまで吹き飛ばせ!」
市の猪八戒に命じながら筋斗雲を急上昇させる。
「兄き、投げて!」
猪八戒としてなのか妹としてなのか分からない声を上げて芭蕉扇を構える市。
ゾワ
芭蕉扇は取り出しただけで、一里四方の空気が騒ぐ。
ん?
琥珀浄瓶のくびれを握る手に嫌な振動が伝わる。
ビリビリビリ……ビリビリビリ……
瓶の中で曹操が暴れている、こいつ、まだ力があるのか!?
急がなければ!
トリャアアア!!
ピシ!
俺が投げるのと瓶にひびが入るのが同時だった!
バッビュン!!
続いて芭蕉扇が振るわれて、最初の風が衝撃波となって駆け上がって来る!
巻き込まれる寸前に身を翻す!
回転する視界の中に信じがたいものが見えた……暴風の先駆けに身を震わせる琥珀浄瓶は、その瞬間に破裂して闇が現れ。その闇は瞬時にゴジラほどに巨大な魔神と化し、吹きつのる暴風を僅かに超える速度で地上に降りてくるではないか!
ジリ……ジリ……ジリ……ジリジリ……
「芭蕉扇でも吹き飛ばせないブヒ!」
「加勢するッパ!」
バビュン! バビュン! バビビユン! ババビユン!
茶姫の沙悟浄も加わって芭蕉扇を扇ぐ姿は、猛烈な火災にホースを構える果敢な消防士のようだ。
「関羽! 張飛! 皆を遠ざけて!」
孔明が叫ぶ。
「みなさん、あっちへ逃げて!」
大橋も二人の横にあって退くことを知らない。
この事態に至っても全体として崩れずにおれるのは、城壁に立つ三人の姿があればこそなのかもしれない。
避難民が一町も下がると、大橋も芭蕉扇の柄を握り、微力ながらも力を振るう!
ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……
バビビユン! ババビユン! バビビユン! ババビユン!
ジリジリ……ジリジリ……
いかん、僅かではあるが大魔神の方が早いぞ、それに……瓦礫の陰に逃げ遅れた子どもたちの姿が!
筋斗雲を踏む脚に力を入れた、その刹那。
ドドキューーン!
銃声がしたかと思うと、大魔神の両眼が朱に染まった!
シュキーン!
金属音がしたかと思うと、地上にあと一歩というところで、大魔神は脚を停めて跪いた。
見ると、武蔵が折れた太刀を持ってジグザグに駆け抜けていく。城壁の上には銃を構えたままのリュドミラが――今のうちに――という顔で筋斗雲の俺を見上げている。
「みんな、これに乗れ!」
「ありがとう、悟空のおにいちゃん!」
年かさの男の子の礼だけ聞いて、残りのチビ三人を乗せる。
「おにいちゃんは!?」
「自分の脚がある」
そう言って、筋斗雲の尻を叩く。
リュドミラが瞳の真ん中を撃ち抜き、武蔵が太刀を下りながらも脚の腱を切り、しばらく大魔神は動けないと思った。
ウォーーン!
くそ、子どもたちを救助した僅か五六秒で大魔神は立ち直って、地上に足を付けた。
ドドキューーン! チチン!
リュドミラの二撃目は瞬時に現れたシールドに弾かれてしまう。
こいつ、戦闘状況に合わせて進化している……!?
是非に及ばず!
敵わぬまでも、この信長が抗ってやるか。
如意棒を構えると、それは生前使い慣れた薬研藤四郎の太刀に変わった。
姿も元の信長に……と思ったが、悟空を解除した姿は転生学院の制服。
この美少女姿にも磨きがかかってきた。この形で果てるのも面白いか。
さて……
尻を探ると、ちゃんとスパッツも履いている。生パンでくたばってはみっともないからな。
人間五十年~ 下天のうちを比ぶれば~
自然と幸若舞の敦盛が口を突いて出てくるぞ。
夢幻の如くなり~ ひとたび生を受け~
あと一節……
スタ
軽やかに音を立てて降りてくる者がある。
それは……猪八戒の姿も解除した転生学園制服姿の市だった。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主