大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・104『今度のMITAKAは教室で』

2024-06-13 14:07:27 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
104『今度のMITAKAは教室で』   




 いつもの応接室の使用許可が出なくて、うちの教室でやっている。


「え、ダメなんですか?」

 いつものように使用許可を取りに行くと、生指の若杉先生はこっちの顔も見ないで「今日はダメだ」と書類書きの仕事を続ける。こんなにツッケンドンな先生は初めてだ。

 しばらく開けなかったMITAKA(みんなで楽しく語る会)をやるために、応接室の使用許可をもらいに生活指導室に行った。

「……分かりました」

 数秒遅れて返事すると、真知子はわたしとロコを促して廊下に出た。

 事務室の前まで来ると、ちょうど二階からたみ子が下りてくるところ。

「そっちは?」

 真知子の問いかけにたみ子は首を横に振る。

「ダメだった」

 たみ子は、この春からできた相談室の使用許可を伺ってきたんだ。

 前回使った作法室は月に一回お茶の先生の出稽古の日でつかえない。夏休みでもないので図書室も使えないし、万事休す。

 それで、仕方なく自分たちの2年3組の教室でやることになったわけ。

 机の半分を両端に片して、残り半分をサークルにする。

 途中から入って来る者もいて、その都度、片した机を持ってきてガタゴト移動する。その度に机を小さく移動させて話が中断するのでやりにくい。

 折から、梅雨の真っ最中。窓を開けてもジメジメとうっとうしい。応接室ならエアコン使えるのにね。

ロコ:「これは、学校の陰謀ですね」

一組女子:「うん、学校はMITAKA嫌がってると思う」

五組男子:「うん、金原さんのことが話題になるのを警戒してるんだ」

七組女子:「え、そうなのぉ?」

高峰君:「自傷行為だからね、噂になるのを嫌がってるんだと思う」

たみ子:「でも、その……学年は一つ上だけど、同じ宮之森の生徒が自……えと……なにしたんだから、きちんと受け止めておかなきゃいけないと思う」

巡(わたし):「うん、去年の栗原さんは病気でだったけど、いろいろ考えなきゃってことあったもんね」

 人の死、それも自分たちと同じ生徒が亡くなるというのは、ちょっと衝撃。学校からは全校集会で話があっただけで、それ以上にはなにもない。

 令和だったら『命の大切さ』とかで、あらためて集会があると思う。少なくともスクールカウンセラーとか来て、カウンセリングはやると思うよ。

たみ子:「真知子、進め方とか、ある程度決めた方がよくない?」

真知子:「ああ……うん、でも、ごめん……わたしにもよく分からないのよ……なんとなくね、このままじゃいけないって気持ちだけで」

ロコ:「去年は市ヶ谷の件もありましたからねえ」

 市ヶ谷……そうだ、去年は三島由紀夫が劇的な割腹自殺をやったんだった(064『三島事件とわたしたち』)。

 ビックリはしたけど、令和から通っているわたしにはVRで観ているようなバーチャル感があって、この時代の人たちほどには深刻な感じはしていない。

真知子:「まあ、ヒートアップしすぎたら、みんな注意しよ。どうかな?」

 うんうん、みんなが頷くと10円男の加藤高明が女子を連れて入ってきた。

10円男:「金原さんのクラスの子に来てもらった」

 おお……( ゚Д゚)

 軽いどよめきが起こる。

 落第坊主の10円男は三年生にも人脈があるんだ。

 いつもは冷やかしたりイジったりされている10円男……いや加藤君だけど、このへんの判断力とかは評価していい。

三年女子:「加藤君から言われて、ちょっと戸惑いはあったんだけど、美奈が可哀そうで。でもね、興味半分には聞かないでね。いいかな……」

 みんな、静かに頷いた。

三年女子:「それと、どうせ外には知れてしまうだろうけど、他の人に話す時は美奈の名前は伏せて。週刊誌的な興味で広められるのは絶対いやだから」

 みんなは居住まいを正して、もう一度頷いた。

三年女子:「実は……」

 三年女子さんは、何度もためらいながら、ためらう度にハンカチで目と鼻を押えて話してくれた。

 要約すると、こんな感じ。

 密かにというわけではないんだけど、他校の男子と付き合っていたことがお父さんに知られてしまった。最初はやんわりと、二度目ははっきりと、三度目はこっぴどく叱られたらしい。

 とうとう家から出ることを禁止された金原さんは家の人が出はらうのを待って命を絶った。どんな風に自分を終わりにしたのかは聞けなかった。
 いずれは知れてしまうんだろうけど、自分が話したことから、その部分だけが取り出されて話題にされるのを恐れたんだそうだ。

 MITAKAの誰も詮索はしなかったし、その三年女子さんが、言いたかったのは、そこじゃなかったから。

「なんで、聞いてあげられなかったんだろう……なんで気づいてあげられなかったんだろう……」

 彼女の話のテーマは、そこにあった。

「いいわねえ、こういう集まりって……加藤君、キミは落第して正解だったわね、うちの学年だったらこうは行ってないわよ。じゃ、わたしはこれで」

 ペコリと頭を下げて教室を出ていく三年女子さん。

10円男:「あ、ちょっと見送って来る」

真知子:「あ、うん。もう、戻ってこなくていいから」

10円男:「え、あ……」

たみ子:「その言い方は」

真知子:「ああ、ごめん、そういう意味じゃ(;'∀')」

10円男:「あはは、分かってる分かってる(^〇^;)」


 それでも心配で、窓から覗いたら、10円男も振り返って手を振って水たまりを飛び越える。

 水しぶきが眩しいと思ったら、雲の切れ目からお日さま。

 梅雨明けはまだまだだけど、梅雨の中休みぐらいにはなりそうだ。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)059・夏休み編 初めての飛行機

2024-06-13 06:34:14 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
059・夏休み編 初めての飛行機                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 ちょっと心配だった。


 だって、車いすで飛行機に乗るんだよ。生まれて初めての飛行機なんだよ。

 あらかじめググっておいたけど、実際にやってみると、とっても新鮮。

 搭乗前にいろいろあるので二時間前に関空のサービスカウンターに行く。

 関空まではお姉ちゃんのウェルキャブ、この日の見送りのためにお姉ちゃんは休暇をとってくれている。


「あれ、みんなも?」


 車を降りてビックリ。

 啓介先輩、須磨先輩、ミリー先輩の三人も揃って待っていてくれたからだ。

「や、やさしい人たちね(´;ω;`)ウッ…」

 さっそくお姉ちゃんは感動する。ちょっと恥ずかしい。

「早く目が覚めて」

「俺は時間間違えて」

「えと、なんとなくね」

 三人それぞれだけど、わたしのことに気を使ってくれているのはバレバレ。お姉ちゃんも分かっていて、さらにウルウルになってる。

「いつもの車いすじゃないのね?」

「万一故障とかバッテリー切れになったら大変だし、使い慣れてるしね」
 
 いつもの電動車いすではなく、予備の車いす、ジュラルミン製で取り扱いが簡単。電動になる前は、ずっとこれに乗っていたんだよ。

 サービスカウンターに行くと、生まれてからずっと笑顔だったような女性スタッフが搭乗までの流れを教えてくれる。

「まずは、これにご記入ください」

 歩行状況チェックシートを手渡される。

「これを基に、到着までのお世話をさせていただきます。カウンターの中におりますので不明な点がございましたらお申し付けください」

 どれどれ……(((¯(¯ー¯)¯ー¯(¯ー¯)¯ー¯)¯)))) 

 みんなが覗き込む。簡単なチェックシートなんだけど、やっぱ空の旅ということで、みんなの好奇心は高まっている。

「へー、機内は専用の車いすに乗り換えるんや!」

 みんなジュラルミンにしたのは飛行機に乗るためだと思っていたようね。

 車いす用のトイレの近くの座席、座席の肘掛が可動式なのを確認すると、空港内用の車いすに乗り換える。

「千歳のお尻収まるかなあ……」

 お姉ちゃんが無用な心配するくらい幅が狭い。座席の幅は30センチちょっとしかない。

 無事にお尻を収めて保安検査場に。あらかじめ所持品は分けてあるのでスイスイとチェックしてもらう。

 まあ海外出張なんかに慣れているお姉ちゃんが付いているので問題はない。

「それでは、お体に触れさせていただきます」

「え?」

 係員のお姉さんに言われてビックリ。

 当たり前なんだけどボディーチェックだ。ググってはいたけど抜けていた。

 事故した時にお医者さんに触診されたとき以外、他人に体を触られるのは初めてなのよ。

 十秒足らず、ササッと触られる。

 なんか緊張、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

 こんな緊張してたら、爆弾とか隠し持ってるんじゃないかと疑われるんじゃ……心配になるけど、あっさりOK。


「さ、あとは乗るだけやなあ!」


 ベンチに座ってミリー先輩。ちょっとウェットな気合いが入ってる。

「どうかしました?」

「ハーーーーなんか日本離れるのって寂しい……」

 この言葉にみんなが笑う。だってアメリカ人がアメリカに行くのにおセンチになっているのは、やっぱ笑える。

「三年も居ると、もうほとんど日本人なんよね……」

「年に二回は里帰りしとるやないか」

「ハハ、せやけどね」

 今度の旅行は、ミリー先輩にとっても特別のようだ。


 飛行機に乗ってビックリ!


 なんと車いすの車輪が外されてしまった。

 ストッパーを掛けられる時の衝撃があったかと思うと、キャビンアテンダントのオネエサンが車輪を外したのだ。

 それでも、車いすはコロコロと押されて行く。

 ひょいと足許を見ると、オモチャみたいな車輪でスムーズに転がっている。

 いつの間に付けた? え、最初から付いてた?

 慣れたアシストで座席まで連れて行ってもらえる。

「あ、えと、えと、おトイレ行っておきたいんですけど(^_^;)」

 ググった時の一番のポイント。あらかじめ行っておかないと、離陸して水平飛行になるまで行けない。

 それに飛行中に手を上げて「トイレに行きたいんです」の意思表示をするのは恥ずかしい。


 トイレから戻ってきてビックリした。


「え、なんで( ゚Д゚)?」


 横の席にはお姉ちゃんが座っている……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント (2)
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