やくもあやかし物語 2
アテンション! アテンション! 校舎内の生徒および教職員は全員校舎の外に避難! 繰り返す、校舎内の生徒および教職員は全員校舎の外に避難せよ!
侵入した妖の大半をやっつけ、残ったやつも逃げ出して、やっと平常に戻ったかと思うと緊急の校内放送。
警備副司令を兼ねている魔法学のソフィー先生の声だ。
ガチャン
玄関前の広場に集合すると、玄関の鍵をかけてみんなの前に立つソフィー先生。
先生の後ろには、少し下がって他の先生たち。横には警備犬のボビーが顎を上げてお座りしてる。どうやら、この場はソフィー先生が仕切る様子。
「やくもと森の住人の働きで妖を退治、あるいは撃退できたが、とんでもない事態が起こった」
冷静ではあるけど厳しい声に、生徒も先生たちも言葉が無いよ。
「逃げた妖が学校のキーストーンを盗んでいった!」
キーストーン?
わたし同様に?マークの浮いている顔と、目を剥いて驚いている顔がある。
「キーストーンは、学校のホール天井の魔石だ」
先生が手を上げるとホール天井の3D映像が浮かび上がった。
みんな振り仰いで天井を見る。
わたしも見たけど、アーチ型になった天井の石はどこも欠けてはいない。
「先生、どれがキーストーンなんでしょうか?」
メイソン・ヒルが質問して、みんなも先生の顔に目を向ける。
「これだ」
先生が指を動かすと、天井の五か所の石が光った。五つの石を繋ぐと星の形になるんだけど、星の真ん中は黒く抜けている。
「魔石のキーストーンはリアルの石に重ねてあるので普通では見えない。見えないからこそ発見が遅れた」
「でも先生、要石は他にもあるし、建物自身、耐震基準を満たしていると聞いています。緊急にどうこうということは無いんじゃないですか?」
「魔石のキーストーンが抜けた状態で使用していると、魔法的には全く無防備だ。呪いをかけられたら持ちこたえられん。ナザニエル卿が王宮の敷地全体に結界を張ってくださっているが、それとても万全では無いし、未だに工事中でもある。寄宿舎部分には影響はないので普通に過ごしてもらって問題は無い。授業や実習は宮殿の一部を拝借して継続する」
やっと収まったのにどうなるんだろう……思っていると先生の顔がこっちを向いた。
「やくも、君の魔法特性が合っている」
え、え?
「魔界経験値が他の者よりも二桁高い」
たしかに、中学にいるころいろんな妖に関わったから、先生たちよりも魔界慣れしているかもしれない。
「そうだ、やくもほどに魔界耐性があるのは、わたしぐらいのものなんだが、わたしには王宮全体の警備任務がある。侵入した妖を撃退したばかりで申し訳ないが、魔界に踏み込んでキーストーンを取り返してきてほしい」
え……ええ!?
「人によっては二日程度の同行が可能だ。生徒、教職員の中から交代で支援に向かう。がんばってくれ」
みんなの目がわたしを見てる。
大丈夫、及ばずながら力になるというのから、勘弁してくれというのとか色々。
日本にいる時もそうだったけど、こういう状況で断ることができない。
でも、なにか言いたい。聞きたい。言いわけしたい。
「では、自室に戻って準備してくれ。こちらは最初の同伴者を選んでおくからな」
有無を言わせぬソフィー先生。
「は、はい……」
唇をかんで自分の部屋に向かうやくもだったよ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖)