巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
「ところで、笹はどうするの?」
倉田先生のOKをもらって(あんまり積極手にではないけど)生徒会室のドアに手をかけたところで真知子が質問する。
「え、どこかにあるでしょ」
気楽に言ったのは、ここが1971年だという気持ちがあったからだろう。
なんせ昭和だよ。令和から平成の30年を跨いで、ずっと遡った昭和46年。
スマホもネットも無い時代、笹ぐらいどこかに生えてると思う。
「あんまり見かけないかもよぉ」
たみ子が首をひねる。わたしより15センチ高いところで首をひねられると圧が高い。
「万博会場の周りとか笹だらけだったじゃん」
「万博会場は元々竹藪だったからでしょ、ここら辺に竹藪とか無いわよ」
「え、そうなの?」
ちょっと昭和を見くびっていた。
「あのう……」
え?
ロコが声を上げるので、三人とも期待の眼差しを向けてしまう。
「アテがあるの!?」
たみ子の圧に、わたし以上にビビるロコ。
「いえ、そのぉ、竹と笹は違いますから」
え……?
「笹は、タケノコの時の皮がずっと残ったままで、そんなに大きくなりません。学校とか自治体とかで大規模にやる時は竹で代用することもあるんだそうですが」
そうか、目の前の真知子とたみ子の違いぐらいなんだと思った。アグレッシブなところなんか二人ともいい勝負だし。
「それで、アテは?」
「アテはありません、違いがあるって話をしただけですよぉ」
「「「なんだぁ」」」
ガラ!
「「「「わ!?」」」」
いきなり生徒会室のドアが開いて声が出てしまう。
「なにか、生徒会に用かしら!?」
美人生徒会長が眉毛を逆立てている。たみ子どころではない圧があって、こちらには提案の基礎となる笹の調達方法が無くって、これでは話にならなくって、真知子でさえ直には言葉が出てこない。
「いえ、あ……また出直します!」
四人揃って回れ右して一階に下りる。玄関前に出ると、相変わらずドンヨリの梅雨空。ポツポツと雨まで降り出してくる。
おーーい!
体育館の横っちょから声がかかったかと思うと、女バレのユニホームの佳奈子が――どうだった?――という顔で走って来る。
今の今まで練習をしていたんだ、汗ビチャなんだけど部活モードで、わたしらの十倍くらい電圧の高い顔になっている。
「ああ、じつはね……」
「なんだ、そこで躓いてんのか」
わが友ながら、ちょっとムカつく。
でも、タオルでクルリと顔を拭いて発した言葉は、梅雨のスイッチをパチンと切ったみたいだ。
「それなら、あたしにアテがあるよ」
え、ほんと( ゚Д゚)!?
「うん、実は……」
詳しく話そうとしたら「吉本センパーイ!」と一年部員たちの声。
「今いく! じゃ、後でグッチに電話するからあ!」
頼もしいセッターは、わたしの顔を指さして体育館に戻って行った。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人