大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・227『緊急ちゃぶ台会議』

2024-06-16 18:11:37 | 小説4
・227

『緊急ちゃぶ台会議』メグミ 




 サイズにも寄るだろうけど、ちゃぶ台の定員は四人だと思う。

 むろん円形だから三人でも二人でもおかしくは無い。ちょっと詰め合えば五人くらいで卓を囲むこともできる。円形だから上座も下座もないしね。

 その気になれば、いくらでも大きなちゃぶ台は作れる。じっさい国際会議などでは、直径5メートルのちゃぶ台(円卓)が使われることもある。直径5メートルもあれば二十人ぐらいは楽に座ることができる。

 三十年も前に漢明で国際会議が開かれた時には直径8メートルの円卓が使われた。卓の高さも40センチに抑えられ、当時の大統領は「中華式のちゃぶ台です」と互恵・平等の発露だと自慢していたが、8メートルもあってはちゃぶ台とは言えない。

 お岩さんは言う。

「茶碗を差し出せば直接受け取ってお替わりを渡せる大きさ」

 シゲ爺は言う。

「ちゃぶ台返しもできねえのはちゃぶ台じゃねえ」

 
 そのちゃぶ台を二つ並べ、島のくせ者たちが寛いでいる。
  

 ついさっきまでは、ちゃぶ台をもう三つ並べ、この三倍の人数で非公式の緊急会議を開いていたんだ。

殿下:「いや、大事にならなくてよかった……最初にあの映像を見た時には、どうしようかと思ったけど」

サブ:「抜かりはないつもりだったけど、こんなに早くコピーされて、正直ビビっちまったけどな」

ハナ:「ウンコもらしそうな顔してたもんな」

サブ:「うっせえ!」

マヌエリト:「朱元尚大佐、生きて返したの後悔した」

お岩さん:「もう、ナイフは仕舞っとくれよ、村長(^_^;)」

及川市長:「しかし、あの写真から劣化版とはいえ概念的に同一のものを作ってしまうとはビックリでした」

 実は、漢明がうちのそれにソックリな選鉱機を作ったと漢明技術研究所が動画を発表したんだ。

 こないだやってきた朱元尚大佐が秘密に写真を撮っていて、そこから概念設計をやり、ソックリなものを作った。

 スペック的にも、うちの90%の能力を持っていて、漢明が採掘するパルス鉱は20%増しの力を発揮すると言われた。特に、パルスギについては、その選鉱途中の状態から精錬法まで類推できると思われた。

シゲ爺:「なあに、なぞっただけでは何もできん」

 現役の技師だったころに選鉱機の概念設計をやったシゲ爺が、映像のあちこちを指摘し、その性能が島のそれに匹敵しないことを指摘。

シゲ爺:「それに、ここじゃ、選鉱速度が早いように見えとるが、早回しにしとおる。脇に写っとるパルスガの振動が理論値の二割増し、あり得ん。それと……」

 ヨレた神主姿からは思いもつかない明晰さで、他にも三点の矛盾を説明してくれて、ほとんどフェイクと言っていいしろものだということを説明してくれた。

ハナ:「なんか、見かけはメグの方がえらいように見えてるけどなあ。ポンコツでも、うちの神主は大したものだったんだなあ」

シゲ爺:「誰がポンコツじゃ」

メグ:「いや、ほんとにシゲ爺はすごいよ」

 じっさい、そう思う。わたしは十年以上前に失った自分本来の姿を未だに取りもどせてはいないんだからな。

お岩さん:「さあ、一安心できたんなら一杯やろうか、夜は長いんだからね。ハナ、取りあえず熱燗十本」

ハナ:「ヘイヘイ~……え?」

お岩さん:「どうしたぁ?」

 ハナが開けたままの障子の向こうに人影。

ハナ:「どうした、フーちゃん?」

 明かりを落としたフロアーに立っているのはフーちゃんだ。フーちゃんらしからぬ沈黙に、座敷のみんなが身を乗り出す。

フーちゃん:「転属を命ぜられました……」

 ええ!?

     
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)062・夏休み編 アリゾナミュージアム

2024-06-16 07:14:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
062・夏休み編 アリゾナミュージアム                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 そうなの……  ま いいけどね……  え あ うん……


 三人三様やけども、気乗りがしないという点では一致している。


 すべては俺が悪い。

 ワイキキビーチでクタクタになるまで遊んで、飛行機の疲れもあったんで晩飯もそこそこに寝てしもた。

「一応、明日のスケジュール決めなくっちゃ」

 須磨先輩の一言でスマホを取り出す。

 この旅行の行先は、ダウンロードしたアプリに条件というか、その時の思い付きを書くと相応しいコースをセッティングしてくれる。

 初日はシステムがよく分からなかったんで、ミリーのスマホだけでやってたんやけど、四人それぞれ別々に打ち込めると分かった。


 俺は『日米親善』と入力してしもた。


 なんやムルブライト奨学金とか銘打ったったし、ちょっとはムルブライトさんの顔たてなあかんのとちゃうやろか、そんな気分。

 それが、なんや上位のキーワードやったみたいで、そこに決まってしもた。


 アリゾナ記念館!


 オアフ島にある沈没戦艦アリゾナの上と隣接する陸地にあるミュージアム。


 アリゾナはただの沈没船とは違う。

 1941年の真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして撃沈した戦艦で、二千人以上の犠牲者を船内に閉じ込めたまま水深20メートルそこそこの浅瀬に沈んでる。

 女子らはもとから興味ないし、なんちゅうてもリメンバーパールハーバーの総本山みたいなとこや。

 日本人としては、いささか気が滅入る。

――沈んだアリゾナからは、いまだに油が浮いてきて、それが日本のスネークアタックをいまだに非難しているように感じられる――

 中学の公民で先生がスライド見せながら言うてたとこや。

「ほんとに油が浮いてきてる……」

 アリゾナを跨ぐドーム型桟橋は巨大な牛乳パックという感じ。その中央、桝形に切られた床の下にアリゾナの中央部分が臨める。須磨先輩が覗き込んでいる。

 興味のなかった女性陣も海の上の墓標のような記念館にシンミリ。海面からわずかに覗く赤さびた上部構造、近寄ればエメラルドグリーンの海、手を伸ばせば届きそうなところに横たわる船体。おのずと厳粛な気持ちになる。

「わたしも見たい」

 千歳が言うので、須磨先輩と二人で介添えして立たせてやる。

 ……これが重い。

 なんせ腰から下が完全に不自由な千歳。完全に全体重を支えてやらんと立ってることもでけへん。

 それに、立たせてやるためには腰と腋の下を支える。なんちゅうか、女の子のこんな場所を触ることなんてありえへん。

 ミリーがおったらよかったんやけど、一つ向こうの犠牲者銘板を見に行っておらへんし。

「船が泣いてる……」

 感動した千歳は、しっかり見ようとして俺の方に体重を寄せてきた。

「ちょ、危な……」

「キャーーー」

 支えきれずに共倒れになりかかる。


 ガシ!


 大きな手が俺と千歳を同時に支えた。

「オー ダイジョブデスカ」

 片言の日本語に振り返ると身の丈190くらいの白人のオッサンがニコニコしている。

「「あ、あいがとうございます」」

 千歳と須磨先輩がハモってお礼を言う。

 オッサンの後ろには同じようにニコニコした黒人のオッサン。

「オー センキュウー フォー ユア……」

 事態に気づいたミリーが戻ってきてオッサン二人に礼を言ってくれる。

 なんや意気投合して四五分喋って大笑い。わけ分からんうちにオッサン二人がグローブみたいな手ぇで握手してきてバイバイになった。

「海軍のオフィサーなんやて、アリゾナの上で日本の若者を助けられて嬉しかったって言うてた」

「オフィサー?」

「海軍の将校さん、ま、若いから中尉さんくらいかなあ」

「え、若いのん?」

「うん、二人とも二十代前半だよ」

「「「へーーー」」」

 心の中でオッサンをオニイサンと訂正する。須磨先輩は同年配と分かって複雑な顔。

「陸のミュージアムもぜひ見てくれって」

 陸のミュージアムは展示とシアター。正直気はすすまへん、ふだんは意識せえへんけど、リメンバーパールハーバー、日本のことをクソミソに書いてる展示物なんか見たくない。

 真ん中に在りし日のアリゾナの模型、首を巡らせると意外なことに空母赤城、甲板には出撃間近の攻撃機や雷撃機やゼロ戦がビッシリ並んでる。

 俺は『艦これ』とか『はいふり』のオタクやないけど、アリゾナ以上にていねいに作られてる赤城が意外。

 説明はどれも英語なんで、ちょと安心。

「なにが書いてあるの?」

 聞かんでもええのに、須磨先輩がミリーに聞く。

「えと……ま、いろいろ」

 やっぱり俺らには聞かせたない内容があるようで口ごもる。

「うわ!」

 千歳がビックリするんで見上げたら、実物大の艦攻が今まさに魚雷を放っているのがぶら下がってた。その前には停泊する太平洋艦隊。いやはやド迫力の展示ではある。

 このコーナーでもミリーはあいまいな説明しかしてくれへん。ま、いたしかたない。

 日本人のだまし討ち!

 低いけど鮮烈な言葉が聞こえてきた。声の方向から俺らに言われたような気がした。

 振り返ると、アジア系の数人が俺らにきつい目ぇを向けてくさる。

「関わらない方がいい」

 ミリーに言われて外に出る。


「誤解がないように言っとくね」


 外に出るとミリーが真面目な顔で言う。

「展示も説明も、とっても公平やったよ。日本軍の攻撃が非常に高度に訓練されていて優秀やったことや、攻撃が軍事目標に限られてて、市民には被害が無かったことなんかを冷静に書いてあった」

「「「え?」」」

 なんとも意外やった。

 それやねんやったら、その場で説明してくれたらよかったのにと思た。

「わたしらの後ろにアジア系が居たでしょ」

 あー、あいつらか。

「なんか、とっても挑戦的でさ、まんま訳して、三人が反応したら刺激するんやないかと思ってねぇ」

 なるほど……

 ちょっとシンミリして「美味しいもの食べにいこ!」須磨先輩の一言で気持ちを切り替える四人であったのだ!
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする