大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・49《グシャ! 不登校女がギクリとする》

2021-04-11 05:57:14 | 小説3

レジデント・49

《グシャ! 不登校女がギクリとする》   

 

 

 ビビらせるつもりはなかった。

 

 ほら、お姉ちゃんがやったじゃん。

 毎朝テレビが潰れたのをNHKのニュース速報で知った時、思わず握りつぶしたアルミ缶。

 グシャって潰れて、お姉ちゃんが手を切って、血がポタポタ。

 人がアルミ缶を握りつぶして血を流すって初めて見た。

 

 テレビ局辞めてからは、ジャージでゴロゴロばっか、あのバカ姉にあんな力……っていうか、想いがあったんだと見直した。

 正直カッコいいと思い、こっそり真似してみた。

 グシャッ!

 音は良いんだけど、血が流れない。グシャグシャっと揉みしだけば切れないこともないんだろうけど、一撃でやらなければ値打ちが無い。

 炭酸飲料のアルミ缶でやるからだめなんだろうか?

 お父さんが飲み干した奴で試してみたけど、やっぱりできない。

 

 四日目に、なつきの部屋でやってみた……。

 

 あいかわらずの登校拒否。

 担任もさじを投げ、綾乃やみずきに「まかしといて」と胸を張った手前、そろそろ成果が出なきゃとも思っていた。

「あ、噴き出すよ!」

 今日初めて積極的な言葉を吐いたのが、これ。

 会話にならないもどかしさから、出されたコカ・コーラを開けもせずにもてあそんでいた。

 今日もダメかと温くなり始めたコーラを開けようとして、なつきが注意が耳に届く。

 届くというのは、単に聞こえたというのじゃなくて、相手の行動を制止しようという力があったということ。

 そりゃそうでしょ、盛大にコーラを零されたら、敷きなおしたばかりの夏物カーペットがオシャカになる。

「開けなきゃ飲めないじゃん!」

 我ながらツッケンドン。

 もうひと月近くの不登校。三日に二日は足を運んでいるんだけど会話にもならず。だからね。

「こ、こやるといいんだよ」

 そろっとコーラを手に取ると、なつきは横倒しにしてソロリソロリと転がした。

「こうやるとね、炭酸がコーラに吸収されて爆発しなくなるんだよ」

 さすがはお好み焼き屋の娘、こういう芸には長けているようだ。

 ペシ

 プルトップを引いてグラスに注ぐと、コポコポコポと穏やかに泡立って、噴きこぼれはしない。

「学校も同じだと思うよ、おだやかにソロリソロリとやればどうってことないから。コーラでやれるんだから学校でやれないわけないよ」

 クサイとは思ったけど、なんでもいい、なつきの心を動かせればとカマしてみる。

「学校とコーラは違うよ」

 思った通りの答えに返す言葉もなくコーラを一気飲み。

 プハーーーーー!

「男前な飲みっぷりぃ~」

 媚を売ったような合いの手に、いささかムカつく。

 

 グシャッ!

 

 あ……やった、握った拳の隙間からツ-と血が流れ、ポタリとスカートに落ちた。

 不登校女がギクリとする。

「あ……あ…………」

「いいかげん、わたしもタギッテしまうよ……!」

 なつきはオロオロと、でも、お好み焼き屋の娘、野球小僧のお姉ちゃん、救急箱を取り出し、慣れた手つきで傷の手当てをしてくれた。

「あ、あ、あ……明日っからは学校行くから……」

 

 怪我の功名ではあったようだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« せやさかい・200『新学年... | トップ | らいと古典・わたしの徒然草... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説3」カテゴリの最新記事