大橋むつおのブログ

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らいと古典・わたしの徒然草・69『豆の殻を焚きて豆を煮ける』

2021-04-11 06:29:15 | 自己紹介

わたしの然草・69
『豆の殻を焚きて豆を煮ける』    


 徒然草 第六十九段

 書写の上人は、法華読誦の功積りて、六根浄にかなへる人なりけり。旅の仮屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煮ける音のつぶつぶと鳴るを聞き給ひければ、「疎からぬ己れらしも、恨めしく、我をば煮て、辛き目を見するものかな」と言ひけり。焚かるる豆殻のばらばらと鳴る音は、「我が心よりすることかは。焼かるるはいかばかり堪へ難けれども、力なき事なり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞こえる。


 書写山円教寺の性空上人は偉いお坊さんで、六根清浄の悟りにいたり……ちとムツカシイ。分かり易く言うと、第六感が働くようになり、ある時旅路の途中、ある宿に泊まったとき、こんなことがあったそうです。

 宿の台所で、豆が煮られていました。

 その豆を煮るために、下のかまどでは、豆ガラが焚かれてています。
 で、まず豆がボヤきます。
「元々は同じ豆なのに、なんで、お前ら豆殻に焚かれなきゃなんねえんだ」
 次に、そのバチバチと焚かれる豆殻がボヤきます。
「焚きたくて焚いてんじゃねえよ。オイラたち豆殻なんだからよ、火ぃつけられちゃ、どうしもねえんだよ。頼むから怨まねえでくれよ」

 わたしには、幸か不幸か、そういう第六感が無いので、豆の恨み言などは聞こえません。ただ、三か月で間引かれた妹が、いつまでたっても高校生の姿で現れてグチっていくのには閉口しています。そのことは拙著『わたしの中に住み着いた少女』に詳しく書いてあるので、タイトルをコピーし、検索の枠に貼り付け検索していただければと思います。URLを貼り付ける操作が分かりませんので……いやはや(^_^;)

 その身から出たものに苦しめられるということは、世の中に、まま有ることですね。現場にいたころ、よく、こういう目にあいました。いわゆる校内暴力で、こづかれ、足払いをかけられたり、シバキ倒されたり。そういうことは、どなたでも容易に想像がつくと思いますが、そんなステレオタイプの話ではありません。

 わたしは、社会科なので、現代社会や政治経済で、市民として行政などの社会権力に働きかける方法を教えていました。裁判における控訴や上告、再審請求。あるいはリコール、請願、そして、その前提になる署名活動など。

 有る年の、ある学年の四月にそれは起こりました。

 クラス編成に不満があるということで、クラスの再編成を求めて生徒たちが署名活動を始めたのです。

 最初は、どこにでもある不満からでした。

「ダレソレと同じクラスになるのはイヤだ!」と言い出した生徒がいました。それに、同調する生徒が続々と現れ、一週間で百名あまりの署名を集め、われわれ教師が知るところになり、「学校いうのは、そういうとことちゃうねん。多少気に入らん奴が居っても、合わせていくのも勉強のうちや」と説得にかかりました。
 百名の署名は、力です。リーダーの生徒たちは、容易には納得しません。
 最後は、こう言いました。
「先生らかて、好きで勤務する学校は選ばれへん。府教委に言われた学校に行って、そこが、自分の愛すべき学校になるように努力してるんや」
 生徒たちには、こういう、人間としてストレートな言葉の方が効き目があります。
「ほんなら、センセも、この学校嫌いやったんか?」
「うん、最初はな。百何十ある府立高校で、なんでオレはこんな学校に来さされてんやろ。て、悩んだもんや。けど一生懸命仕事して、今は、この学校好きやねんで!」

「ほんま?」

「……好きが60%、しんどいが40%」

「しんどいが40%……」

「正直に言うとな……最初は120%しんどいやった」

 で、生徒は納得してくれました。

 この説得が功を奏したのには、日頃の学校生活で生徒の信頼を得ていることが大前提です。常日頃、仕事の文句や学校への不満を言い、怠惰な勤務をしていては、生徒は説得できません。
 かつて、自分が高校生であったころの教師は、おおむね手を抜いていました。自由出退勤とか自宅研修権とか言っては、遅く出勤し、早く退勤していました。一時間目と六時間目に授業を入れられることを、たいていの教師が嫌がりました。非常勤講師になったとき、勤務時間に注文をつけなかったので、週十数時間の授業の全て一時間目、六時間目に入れられて笑ってしまいました。
 学校が好きだったので、特別に文句を言ったりしませんでしたが、今になって思うとたいがいな教師集団ではありました。

 こういうことも耳にしました。

「文化祭、体育祭は勤務日です。せめて出勤簿を押しに出勤はしてください」

 会議室の横を通ったとき、職員会議で、校長が教職員にお願いしているのを聞いてしまったのです。だから、あのころの生徒は、めったなことでは教師の言うことを聞きません。

 それで、自分が教師になったときは、その生徒であったころの経験を頭に置いて仕事をしました。学校に不満があっても、生徒には言わず、生徒より一時間は早く出勤。二時間は遅くまで学校にいました。簡単には焚かれない豆になりました。

 しかし、世の中には性空上人のような人物は少なく、豆たちの声が聞こえず、生徒のイジメや問題行動は減らず。教師のアリバイ研修や仕事は増える一方。
 で、この不況の時代に、教員志望学生の減少に歯止めが効きません。小学校の教員採用試験の倍率は三倍を切っているそうです。

 逆に、早期中途退職者は増加の傾向にあります。かく言うわたしも、その一人ではありますが。

 豆殻のタワゴトでありました……。 
 


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