せやさかい・200
早いもんで三年目。
お父さんの失踪宣告があって、お母さんの『酒井』の苗字になって如来寺が我が家になった。
引っ越しと同時に入学した中学も、早いもんで三年生ですわ!
掲示板を見て確認したクラスは三年三組。
一年も二年も一組やったから、三年も一組かと思たんやけど、まあ、これも小さな変化でええと思います。
うちは各学年六クラスやねんけど、二クラスずつの緩いまとまりがあります。
なんでか言うと、体育の編成が二クラスずつなんですわ。
一組と二組の男子が一組で、女子は二組で着替え。他の行事でも、基本的に二クラスでまとまってやるさかい、他のクラスよりは近い関係。
特に三年生は四階のワンフロアにまとまって教室があって、フロアの階段は東西に二か所。一二組と三組の間と、五組と六組の間にある。
昇降口との関係で、三組までは東階段。四組以降は西階段を使うようになる。
いきおい、西階段組とは疎遠になる。
四組とは隣同士やから、まだましやねんけど、階段挟んだ五六組とはほとんど切れてしまう。
一年からいっしょやった瀬田と田中は六組。留美ちゃんは、こんども同じクラスで、めっちゃラッキー。
そして、担任も二年生の時のペコちゃん(月島さやか先生)なんですよ!
クラス開きのホームルームは昨日やったんやけど、ペコちゃんは掛け値なしに嬉しそうやった。
「教師になって二年目で三年生を持つことになりました。三年生は進路決定の大事な学年です。君たちは、わたしが持つ最初の卒業生になります。君たちは迷惑かもしれないけど、わたしには一生の思い出になるクラスになると思います。先生、一生懸命がんばるから、みんなも頑張ってね! みんなで楽しく充実したクラスにしていこうね(o^―^o)!」
パチパチパチパチ
ペコちゃんの正直な笑顔に、クラスのみんなから拍手が起こった。とりあえずええクラスや!
「先生、がんばってくれたんじゃないかなあ」
「なんで?」
「だって、今年もさくらちゃんと一緒だなんて……」
「え、嫌なん?」
「ち、ちがうよ! さくらちゃんと一緒って、めちゃくちゃラッキーなんだもん(^_^;)」
「あはは、それは、きっと阿弥陀さんのおかげやし(^▽^)/」
こういうところ、お寺の娘というのは楽ちんや。照れてしまうようなことは、全部阿弥陀さんのお蔭言うといたら済むねんさかいね。
「ふふ、そうね」
嬉しそうに、でも、ちょびっと済まなさそうに俯きながら階段を下りる。
ほんまやったら、このまま部室に行くねんけど、コロナの第四波の影響で、室内の部活は休み。
昇降口で下足に履き替えると、家に帰るしかない。
「なんや、もったいないねえ」
「しゃあないねえ、こんなにええ天気、制服やなかったらごりょうさん(仁徳天皇陵)まで足延ばして、帰りに図書館にでも寄るんやけどね」
制服姿でウロウロするのは禁止されてる。完全に守れとまでは言われへんけど、新学年早々いうのは、やっぱりはばかられる。
プップー
後ろからクラクション。
どこのイケズかと思て振り返ると、ごっついRV車。
いっしゅんギクリとするんやけど、一秒で思い出す。
テイ兄ちゃんが分不相応に買うて、先週配車されてきたばっかりの新車ですわ。
「ちょっと、ドライブして帰らへんか?」
運転席の窓開けて、嬉しそうににやけるクソ坊主。
「しゃあないなあ、監視してんと事故りよるからなあ」
変な理屈をつけて、後部座席に収まる。
「留美ちゃん、しっかりシートベルトしときいや」
「う、うん(^_^;)」
べつに注文したわけやないけど、RV車はごりょうさんの方角に走っていく。
「そうか、三組なんか……」
新しいクラスを言うて三年生のクラス編成を披露すると、テイ兄ちゃんは、ちょっと感慨深げになる。
「なんかあるのん?」
「留美ちゃんがいっしょになったんは、やっぱり配慮やと思う」
「そ、そうなんですか」
「負担に思わんでもええねんで、留美ちゃんはしっかりしてるし、うちの寺もええ環境やしなあ。どっちかいうと留美ちゃんもさくらも教師にとってはやりやすい生徒やと思うで」
「えへへ、そうなん?」
「それよりも、五六組やなあ……他の三年生の動線からも外れてるし、担任もベテランの男の先生やし……ぼくのころも、五六組はヤンチャの多いクラスで……そういう配慮かもしれへんなあ」
「そうなんですか?」
「うん、そういう配慮は行き届いてる学校やと思うで」
瀬田と田中の顔が浮かぶ。
あんたら、無事に卒業しいや……。
言うてるうちに大仙公園。
テイ兄ちゃんが、ちょっと早いアイスを奢ってくれて、名残の八重桜を観て帰りました。