勇者乙の天路歴程
027『大名行列対処法』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
「いえ、旅の者ですが」
正直に答えると、村長は不安と安心の入り混じったような顔をした。
よそ者が関わり合うべきではないとは思ったが、スクナの一言でそうもいかなくなる。
スクナ:「焼き芋屋でも来るのお?」
薩摩守→薩摩芋→焼き芋、単純な奴だ(-_-;)。
村長:「滅相もない、 従四位下の薩摩守様ですよ!」
中村:「ひょっとして、島津の殿さまですか?」
村長:「はい、お大名の御行列が通るのは初めてのことなので、とりあえず思いつく限りのことをやってるんですが、もう分からないことだらけで困惑して……」
中村:「ここは始まりの村、薩摩様のご支配地ではないんですから、道の脇に寄って邪魔をしなければ大丈夫です」
村長:「え、そうなんですか? 土下座とかしなくてもいいんでしょうか?」
中村:「はい、大声を出すとか行列を横切るとかしなければ、なにも問題ありません」
ビクニ:「島津は72万石だから、行列は1000から1500、人足を入れると3000ちょっとというところか」
さすがは八百比丘尼、引退教師の俺よりも詳しい。
村長:「3000……間には荷車や籠も入るでしょうから、総延長5キロとか6キロというところでしょうか」
ビクニ:「うむ、そんなところかな。まあ、勇者の言う通り露骨に邪魔をするとか横切るとかしなければ咎められることもない」
いつの間にか、周囲に人が集まり始めて、ちょっと戸惑う。
村人1:「でも、よそで土下座したって話も聞くぞ」
村人2:「5キロ6キロの行列っていやあ、通過するだけで3時間くらいはかかるべ」
村人3:「行列って言うのは遅えから、もっとかかるべえ」
村人2:「うええ」
ビクニ:「飛脚と産婆は横切ってもお咎めなしだぞ」
村長:「そうなんですか!?」
中村:「土下座は支配地の領民にしかさせません。大丈夫ですよ。まあ、軽く掃除をして打ち水でもしておけばいいんじゃないですか」
村長:「いやあ、そうだったんですか。それを伺って安心いたしましたぁ(^_^;)」
『村長ぉ! 来たあ! 大名行列が来たずらぁ! いま、峠を越えて来たぁ!』
教会の塔に上っていた見張りが大声で広場のみんなに告げる。
「よし、西門から東門まで打ち水するぞお、撒きすぎて水浸しにせんようになあ! ゴミの取り残しやら犬のウンコとかも気を付けてなあ!」
おお! がってんだ! まかしといてぇ!
いろんな声が上がって、あっという間にやり遂げて、静かに薩摩守の行列を待ち受ける始まりの村だった。
☆彡 主な登場人物
- 中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
- 高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
- ビクニ 八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
- 原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
- 末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
- 静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
- ヤガミヒメ 大国主の最初の妻 白兎のボス
- ヒコナ ヤガミヒメの新米侍女
- 因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ