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『明日天気になーれ』
絶対に雨が降ると思っていた。
だって台風が来るんだし、天気予報はテレビでもネットでも大荒れの傘印だった。
それが、快晴になってしまった。
あいつの力は本物かもしれないと思った。
テレビでは可愛い天気予報士が、言い訳めいた解説をしている。
「台風は予想より東側のコースをとり、コースの東側はバケツをひっくり返したような大雨と暴風になりましたが、西側は風こそ吹いたものの、所によっては快晴と言っていい日和になりました。この現象は……」
あの日から、271/364になった……。
「ごめん、あなたといっしょにやっていく自信なくなたの……」
決別のつもりだった。
「……弱気になってるだけだよ」
テレビで野球の感想を言うように、省吾は気楽に言った。
「でも、考えに考えた末なの。鹿児島に省吾が転勤して、続いていく自信ないの。東京にいる間だって、いま、こうしている間だって、省吾には、いいとこ見せなきゃって……もう、疲れちゃったの」
「そんなこと気にしてたのか」
「あたしって、家にいるときは、もっとだらしないし、昔のあたしは……」
「昔の美奈穂が、どんなだったか知らないけど、今は、ちゃんとした美奈穂じゃないか。そんな昔の自分に囚われてるなんてナンセンスだよ。それともオレへの気持ちが冷めてしまった……それなら、諦めるけど」
「そうじゃない。いや……そうかもしれない……もう、分かんない!」
あたしはプラタナスの枯葉が積もった歩道にしゃがみこんでしまった。省吾も同じようにしゃがみこんでくれた。
「じゃ、こうしよう。鹿児島に居る間、ずっと東京の天気予報をするよ。とりあえず一年間。オレ……75%の確率で当てて見せるから。それ以上だったら、オレは会社辞めてでも東京に戻ってくる。そして美奈穂の気持ちが変わっていなかったら……結婚しよう」
「あたし……ネリカンにいたの」
省吾の気持ちをクールダウン……いやフローズさせるために秘密を言った。
「ネリカン……ああ、練馬鑑別所か」
「保護観察ですんだけど、省吾が思っているような女じゃないのよ」
「言ったろ、今の美奈穂がいれば、それでいいって。少年院だって、二文字変えれば美容院だ、いいじゃんか。じゃ、飛行機の時間だから。いいな、絶対75%天気あてるからな!」
そして、明日で一年。
省吾はスマホで天気予報を送ってきた。その全部が「晴れ」だった。で、271/364。
明日が当たれば完璧な75%になる。
そして当たった。
「どうして、どうして当たったのよ!?」
羽田のロビーで省吾に抱き付いて聞いた。
「外れて欲しかったか?」
「ううん、そんなことない。そんなことないよ!」
省吾は、秘密を二つバラした。
一つは、東京の晴れの確率は75%だということ。でも、これって平均だから、下回る可能性も半分有る。よほどのハッタリか、一か八かの賭けだった。
もう一つは、会社の人事命令に逆らって東京に帰ってきたので、会社を辞めざるをえないこと。
嬉しかったけど、身の縮む思いだった。
省吾は、持っていた免許を生かして、都立高校の常勤講師になった。楽な学校じゃなさそうだったけど、楽しそうにやっている。演劇部なんてマイナーなクラブの顧問をやって、地区大会で優勝させてしまった。その地区は生徒が独自に審査して出す賞もありそれも金メダルだった。金地区賞とかいて、通称コンチクショウ!
あたしたち、来春には結婚します。