やくもあやかし物語
おまえは誰だ!
びしょ濡れが赤い口を開いて怒鳴った。「誰だ!」と言うのだから、わたしのことを聞いているんだろうけど、勢いが強いので疑問というよりは攻撃だ。
「あ、あなたこそ誰よ!」
むかしのわたしだったら、ワタワタして「あ、え、えと……(;'∀')」ということになるんだけど、少しはあやかし慣れしてきて、ちょっぴりだけど度胸も付いた。
だから、ノッケにかましておく。
体一つでやってきたんじゃなくて、とりあえず、机と椅子はわたしのだしね。
「ここは船長室だ、ひとの船長室に居るお前は密航者だ、密航者は、簀巻きにして海に放り込むのが海の掟だ!」
「え、海に放り込む( ゚Д゚)!」
ドスン
わたしの度胸はいっしゅんで崩れてしまった。
衝撃がリアルだと思ったら、机は座卓ほどの、椅子は座椅子の低さに縮んでしまった。
「ああ、事と次第によってはな(;`O´)o」
びしょ濡れのくせに、めちゃくちゃ怖い。びしょ濡れプンプン丸だ!
「えと、自分の部屋に戻ったら、机の上にミカンがあって『あ、ミカンだ』と思ったら、ここに来てた」
手にしたミカンを、ズイっと突き出す。
「ミカンは、あるのが当たり前、この船はミカン船だ。てめえ、積み荷のミカンを勝手に食ったなあ」
「ち、ちがうちがう! この机だって……え、わたしのじゃない?」
わたしのも木の机だけど、材質も色も違う。樫の木かなんかで、黒光りするごっつい木でできている。
「見え透いた言い訳しやがって」
「え、あ、あ……」
チリリリン チリリリン
「ウワ!?」
黒電話が鳴って、びしょ濡れプンプン丸はビックリして、ピョンと後ろに跳んだ。
揺れる船の中なのに、跳んでもふらつかないのに感心。
わたしは、ちょっと安心した。
机も椅子も変わっているけど、黒電話だけは付いて来てくれたみたい。
チリリリン チリリリン
「そ、その黒いのはなんだ! なんでリンリン鳴ってるんだ!?」
チリリリン チリリリン
「えと、電話だから……出てもいい?」
チリリリン チリリリン
「と、とにかく、その音を停めろ!」
チリリリン チリリリン
「うん、分かった……もしもし」
『船長さんに替わってもらえますか』
交換手さんが言うので、受話器を突き出す。
「替わってって」
「こ、これをか?」
「取らなきゃ、話ができない」
「お、おう……」
「あ、逆さま」
「逆さ……お、おお!?」
正しく持つと交換手さんの声がしたようで、ビックリしている。
……交換手さんは、なにかうまいこと言ってくれているようで、びしょ濡れプンプン丸は目に見えて神妙になって、ふつうのびしょ濡れになった。
「は、はい、承知いたしました。そういうことであれば、きちんとお祀りいたします、は、は、はい、替わります!」
びしょ濡れは、うやうやしく両手で受話器を捧げ持つと、わたしに手渡した。
「もしもし」
『みかんの神さまということにしました。やくもを大切に扱えば、無事に積み荷を届けられると言っておきましたので、大丈夫ですよ(^▽^)』
「みかんの神さま!?」
『そっちに行くわけにはいきませんが、がんばってくださいね』
「がんばるって、わたし、戻りたいんだけど」
『手立ては考えますが、無事に着けばなんとかなりそうですよ』
「あ、えと……」
『それでは、グッドラック』
「あ、ちょ……」
プツン…………電話は一方的にきれてしまった。
「これは、航海安全の為に遣わされたミカンの神さまとは存じませんでした。まことにご無礼いたしましたっ!」
「あ、ども。そこまで平伏されなくても(^_^;)……それで、あなたと……この船はなんなの?」
「はい、改めて名乗らせていただきます」
畏まると、ずぶ濡れは身にまとっていたずぶ濡れを脱いだ。
ずぶ濡れは上にまとっていた蓑一つで、その下はお祭りの法被みたいな下に細身のパンツルック。
ちょっとカッコいい女の子。
「わたくし、紀伊国屋ブンコと申す若輩者でございまして……」
「紀伊国屋文庫?」
頭の中にお馴染みのラノベ文庫のいくつかが点滅する。
☆角川……☆電撃……☆講談社……☆スニーカー……☆オレンジ……☆GA……
ラノベの読み過ぎで、とうとう文庫のあやかしが出てきてしまった!?
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)