魔法少女マヂカ・179
あてがわれた蓮華の間に入るとトランクが二つずつ置かれていた。
トランクには荷札が付いていて、送り主は西郷侯爵家になっている。
「開けてみようか!?」
景品に当った子どものようにノンコが目を輝かせる。
「ああ、開けてみろ」
「よし……あれ、鍵がかかってる!」
「鍵なら、机の上じゃないか?」
机の上には『鍵在中』と書かれた茶封筒が置かれている。中には二人の名札が付いた真鍮製の鍵が入っていて、ノンコはいそいそとわたしの分まで開けてくれた。
「わあ、着るものばっかりだ」
「そりゃそうだろう、今のところ身に着けているものしか衣類はないんだからな」
「セーラー服が入ってる」
「制服だ、女子学習院だな」
「え、え、学習院( ゚Д゚)!?」
「驚くことは無いだろう、この時代の華族の子弟は学習院と決まったものだ」
「だ、だって、ノンコはポリ高(日暮里高校)だよ! 偏差値違いすぎるって!」
「なんとかなるだろ、ポリ高だって50くらいはあるだろう」
「んなもんじゃないよ学習院は! 70くらいあるんじゃないかなあ(-_-;)」
「そうか、でも、我々は卒業しなくてもいいんだ。霧子お嬢様が無事に登校するようになれば、そこで役目は終わりだからな」
「あ、そっかそっか」
「それに、優等生でない方が霧子お嬢様も気が楽だろう。ノンコは霧子に甘えてやるといい。あの子は護られるよりも護ってやる者がいる方がしっかりするような気がする」
「そ、そうなの?」
「ああ、九割九部そうだ」
「……そっか……ね、制服以外はチョーダサいんですけどお」
「この時代じゃ最先端だ、すぐに慣れる」
この時代はアールデコとかアールヌーボーの時代だ。それ以前の女性の体を締め付けるようなファッションは影を潜めて、ゆったりとかザックリといった服装が多い。制服のスカートも膝下五センチだ。
「このパンツとか信じられないですけど!」
「この時代はズロースだ、ああ、もう広げるな。片づけが大変だぞ」
「あ、ガーターベルト(n*´ω`*n)、ちょっとエロいんですけど! で、次は……」
わたしの注意などに耳を貸さずに、四つのトランクの中身全てをベッドの上に陳列したノンコだった。
衣類は全て二人のサイズにあっていた。JS西郷の仕業なんだろうが、これだけお膳立てされていると、ひょっとして仕組まれたかとも思うのだが、ま、今は考えないでおこう。
「ま、マヂカ……ちょっと大変だよ!」
考え事をしている間にノンコは部屋を出ていて、それが、青い顔をして戻ってきた。
「なにかあったのか!?」
「あったんじゃなくて、無いんだよ!」
「なにが無くなったんだ?」
「ト、トイレにウォシュレットが無いんだよ(;'∀')!」
「当たり前だろ、大正時代だぞ」
「そ、そんな、ウォシュレットの無いトイレなんて、ノンコ無理!」
「ああ……」
わたしのように何百年も魔法少女をやっていれば、どんな時代にも適応できるが、去年までは普通の女子高生だった駆け出し魔法少女には無理だろう。
「どうしよう、マヂカ!?」
「よし、一つ魔法を教えてやろう」
「え、どんな!?」
この分なら、霧子以外の事でも手が焼けるかもしれないと思う魔法少女であった……。