高安みなみ大尉は親父の片腕だ。
外見はお茶っぴーなオネエサンだけど、陸軍特任旅団のエリートだ。
なにごとも明るく前向きに取り組み、この人と組んでいたらきっと上手くいくと思わせるオーラがある。
一を聞けば十を知るというような聡明さが本性だと感じるのは俺が仏壇の住人だからだろうか。
特任とは言え現役の陸軍大尉でありながら、ほとんど軍服を着ることも無く、いつも足腰の軽い女子大生のようなナリをしている。
そんなみなみ大尉は呼吸をするようにお喋りだ……という触れ込み。
でも、ハンドルを握るみなみ大尉は寡黙だ……。
まりあが来ることは機密事項にはなるんだろうけど、ちょっと寡黙すぎやしないか?
え……ちょ……みなみ大尉はまばたきをしてないんじゃないか?
俺はみなみ大尉の鼓動に注目した。
安定している……対向車線をはみ出した同型のセダンが衝突ギリギリですれ違っても毛ほどの変化もない。
こいつはアクト地雷だ!
気づいた瞬間、俺を胸ポケットに入れたまりあは車外にテレポートした。
え!?
まりあは歩道に尻餅をついて、たった今まで乗っていたセダンが走り去っていくのを見送っている。
ドックゥアーーン!!
セダンは百メートルほど走ったところで大爆発した。一秒でも遅れたらまりあの命は無かっただろう。
呆けていると、さっきすれ違ったセダンが戻ってきて、まりあの目の前でドリフトしながら停車した。
「早く乗って!」
車から飛び出してきたのは本物の高安みなみ大尉。やっぱりさっきのは特殊戦闘用のアクト地雷だ!
そんな事情の分からないまりあは目を丸くして金魚みたいに口をパクパクさせている。
「まだローンも終わってないダンディーが、ダンディーってのはこの車の名前ね。ダンディーが調子悪くって、やっと調子がもどってカットビで来たら、ダンディーと同じのとすれ違うじゃない。運転してるのはあたしソックリだし、助手席にはあなたが乗ってるし、あ、挨拶まだね、陸軍特任大尉の高安みなみ(懐からIDを出した)どう、制服姿のあたしもイケてるでしょ? ハハ、自分で言ってりゃ世話ないか。本当だったら首都のあれこれ案内しながらと思ってたんだけどね、あたしソックリなアクト地雷が現れるようじゃウカウカしてらんないわ。しかし決心してくれてありがとう、舵司令は何にも言わないけど、あなたのことを頼りにしていたのはビンビン伝わってきてたから。あたし以心伝心てのは苦手でさあ、まりあの決心がもう一日遅れてたら司令とケンカしてたところよ。あ、まりあって呼んでいいわよね? あたしのことは『みなみ』でいいから。あ、ごめんね、あたしばっか喋っちゃって。なんか聞きたい事あったら、別になくってもいいんだけどね……」
「あ、いろいろあり過ぎて……えと、みなみ大尉?」
「ハハ、ただのみなみでいいわよ」
「いきなりは、その……」
「あ、そだよね。あたしってば一方的に距離縮めちゃって。じゃ、みなみさんだ」
「みなみさん。あたし、さっきまであの車に乗っていたと思ったら、いきなり歩道にいて、で、乗ってた車が大爆発で……なんか訳わからないんですけど」
「あれはアクト地雷って言って、人型の地雷。一見人間そっくりだけど、AIじゃないからまばたきとか心拍とかが微妙に違うし、プログラムされた言葉しか喋らないし、なんたって基本は地雷だからね。えと、車から歩道に移動したのはまりあの能力でしょうね、ベースに着いたらテストしてみましょ。しかし、いちばん驚いたのは、危機に直面したらとっさの判断で能力が使えることでしょうね。司令も……お父さんもお喜びになると思うわ」
「いろいろ覚悟はしてきたんですけど、えと、あたしは首都でなにをするのかしら?」
「いろいろ!」
「いろいろ?」
「う~ん、あんまし予備知識はね……直接お父さんから聞くことになるわ、そのほうがいい」
「そうなんだ」
「ハハ、その方がワクワクしていいじゃないの」
ズズーン!! そのとき直下型地震のようなショックがきた。
「わ、地震!?」
「ちがうわ、いまのは……クソ! こんなに早く来るなんて反則よ!」
キーーーーーーーー!!
ふたたびショックがあって、ダンディーは急停車した。