真凡プレジデント・18
presidentの名札が輝かしい。
福島さんが座布団を作ってきてくれて、それに触発された北白川さんが卓上の名札を作ってくれた。
生徒会室は教室の半分の広さで、ゼミテーブルと四人掛けの応接セットがある。他にも、椅子やらロッカーがそれなりにあるんだけど、ことごとくがどこかのお下がりで統一感が無く、パッと見は物置と大差がない。
そこに座布団と名札の統一感が際立って清々しい。
「やっぱ、英語っていいよねえ」
なつきがしみじみと言う。
president 田中真凡 vice president 福島みずき secretary 北白川綾乃 accountant 橘なつき
白地のプレートに黒字で書かれただけのシンプルなものだけど、中古のゼミテーブルでも特別に見えてくるから不思議だ。
「アハ、回転させたら日本語だ(⌒∇⌒)」
会長 mahiro tanaka 副会長 mizuki fukushima 書記 ayano kitashirakawa 会計 natsuki tachibana
「日本語と英語が逆になっててカッコいい」
「真ん中で回転するようになってるから、英語・日本語いずれのオンリーにもなるの」
「北白川さんも福島さんも凄いね!」
わたしは、素直に感動する。
「おザブも同じドーナツ型だ!」
これには驚いた。尾てい骨の事は内緒にしてあるし、座布団はドーナツ型であることが分からないように普通のカバーが付けてある。
「共通理解があった方がいいと思って、二人には話しておいたの」
ムム、なかなか鋭い北白川さんだ。
「びっくりした、てっきり真凡は痔になったのかと……はっきり聞けないしね」
「何年友だちやってんの、わたしが……になんかなるわけないじゃん!」
「あ、いや、だから北白川さんに言われて……」
「あの、苗字で呼ぶのはよさない?」
「「「え?」」」
「他人行儀だし、北白川っていうのは微妙に長いでしょ」
「あ、そうかも」
「じゃ?」
「公でないときは、下の名前……で、どうだろ」
「それいい! わたしがなつき、真凡はまひろ、福島さんはみずき、北白川さんがあやの、決定だね!」
「おお、きれいになったなあ!」
入って来るなり感嘆の声を上げたのは藤田先生だ。
「名札と座布団を、北……綾乃とみずきが作ってくれたんです、ツボを押さえた統一感が成功していると思います」
「そうだな、目の付け所がいい。顧問としても考えなくっちゃなあ……あ、新執行部発足のささやかな差し入れだ、みんなで食べてくれ!」
先生がドンと置いたのは六つは入っているだろうと思われるケーキの箱だ!
「すごい、銀座タチバナのショートケーキじゃないっすか!?」
たちばなにはピンからキリまであって、ピンが銀座タチバナで、キリがお好み焼きたちばなだというのは、昔からのなつきのギャグだ。
「これは、わたしたちのこと以外でもいいことあったんですね?」
「するどいなあ、北白川は(^_^;)、実は、柳沢が無罪放免になってなあ!」
「「「「え、そうなんですか!」」」」
「鉄道のえらいさん達が、柳沢の行動が無ければ、死傷者が三桁は出る大事故になったって結論付けたんだ。選挙は残念だったが、これで学校も柳沢も名誉回復だ」
「よかったですね、先生!」
「先生も掛けてください、いま、お茶淹れますから」
わたしが言い出す前に綾乃とみずきは動き出して、なつきが「え、え?」とオロオロ、とりあえずはチームワークのいい執行部ではあるようだ。
「お茶は要らないみたい」
湯沸かしを下げた綾乃が帰って来た。
「やあ、諸君。安くてかさ高いだけの差し入れだけど、ま、乾杯しようぜ!」
中谷先生がジュースやらお茶のペットボトルを持って現れた。
「田中、ちょっと」
田中先生がひそやかに廊下を指した。
「はい?」
ソロリとドアを閉めると、こそっと紙袋を手渡し。
「辛いんだろ、これ、使ってくれ」
「なんでしょ?」
紙袋を覗いてみると、テレビコマーシャルでも有名な痔の薬が入っておりました(^_^;)。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 北白川 綾乃 モテカワ美少女の同級生 書記
- 橘 なつき 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
- 橘 健二 なつきの弟
- 福島 みずき 生徒会副会長
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問