スサノオは気に入りません。
なんせ、一人娘が、どこの馬の骨とも知れない男と結婚したいと言うのです!
男は、スサノオから数えて五代目(六代目?)の子孫ではありますが、父親にとって娘が好きな男と言うのはカタキ同然ですなあ。
「お父さんはな、そんな下衆な気持ちで言ってるんじゃないぞ。このオオナムチという若造は主体性がないくせに、女には目の無いスケベエ野郎だからだ!」
「ひどいわ、お父さん! なんで、会ったばかりのオオナムチを悪く言うのよ!」
「お、おまえ、こいつは、たった今、うちの家の前に来たばかりの奴だぞ」
「そうよ、でも、わたしには分かるのよ、女の直感。お父さんこそ、会ったばかりのオオナムチをひどく言わないで!」
「俺は経験から言っとる、こいつはやめとけ」
「なんでよ!」
「こいつは外面いいだけの優男だ。言い寄って来る女ならなんでもありにくっついてしまうヒッツキ虫みたいなやつだ、苦労するのは目に見えている。やめとけやめとけ!」
「ひどい、なにを根拠に!?」
「おい、アシハラノシコオ」
「そんな名前で呼ばないで、この人の名前はオオナムチよ!」
「こいつがオオナムチならオマエハムチだ! よっく聞けよ、こいつには、すでにヤマガミヒメって嫁さんがいるんだ。ヤマガミヒメは兄のヤソガミどもを袖にして『わたしの夫は、この人です』って惚れ方だったんだぞ、その新婚間もないヤマガミヒメをほったらかしてくるような奴を信用できるか!」
「あ、お言葉ですけど……」
「なんだアシハラノシコオ!?」
「おれ、兄貴たちに殺されそうになって、てか、殺されたんすよ。お袋のサシクニワカヒメが一生懸命祈ってくれて、なんとか生き返って、そいで、これはヤバイってんで木の国に逃げたんすけど、しつこい兄貴たちは、すぐに追いついて来て、木の国のオホヤビコの神が、この堅州国(かたすくに)に逃げろって、そういう指示に従って、やってきたら、このスセリヒメさんが……ね、これって……」
「そ、運命よねえ(n*´ω`*n)」
「あのなあ、そのダラダラした喋り方も気に入らねえが、その主体性のない人任せってところが、父親としては、めっちゃ心配なんだよ」
「お、お父さんの主体性って、ただのやんちゃ坊主の我がままだったじゃない! 高天原メチャクチャにして、アマテラスの伯母さんこぼしてたわよ!」
「そんな、昔の事を引き合いに出すな」
「お父さんだって、無茶やってきて、人の事言えないってゆーのよ!」
「そうだろうけど、オレは、ヤマタノオロチとかやっつけて、試練を潜り抜けて帳尻は合わせてきたぞ」
「オオナムチだって、ヤソガミたちの試練を潜り抜けて……」
「そんなもん、ほんの序の口……そうだ、このスサノオが試練を与えてやる。それを乗り越えられたら……考えてやらんこともないぞ」
「お父さん、目が怖いよ……」
「どうだ、アシハラノシコオ……」
「あ、いいっすよ」
「ちょ、オオナムチ!?」
オオナムチの試練が始まった……。