やくもあやかし物語 2
「ハイジはね、寸前でお腹の調子が悪くなって」
『プ( ´艸`)』
ロージーがちょっとだけ眉を吊り上げて言うと、御息所が噴きかける。
『あ、いや、ごめん』
わたしと二人だけだったら遠慮のない御息所だけど、みんなが居ると少しは遠慮するのかもしれない。
「ああ、ごめん。タイミングがずれたら全員で来るのは無理だと思ってさ」
メイソンとヒューゴも気を遣ってくれる。メイソンはイギリスの貴族、ヒューゴは相場師。ルームメイトじゃないけど、共通の任務ができると自然と力を合わせられるのは英国紳士だから? ううん、みんな危険を冒してきてくれてるんだ。他のみんなも――すまなかった――という顔をしている。みんなにありがとうだよ。
「うん、そうなんだ」
入学したころは、みんなピリピリしてたけど、やっと思いやれる感じになってきたんだ。だから「うん、そうなんだ」と普通に返しておく。そして、もう一言付け加える。
「そして、ありがとう」
「よしなさいよ、運よく来れただけ。まだキーストーンが取り返せたわけじゃないんだから。ね、みんな」
「ああ」「うん」「そうさ」
ロージーがさっぱりした笑顔で言うと、みんなドンマイの笑顔で返してくれる。
「オリビアから聞いてるんだけど、なかなか魔物たちもやってくれるみたいじゃない」
「ああ、ちょっとね(^_^;)」
「ナザニエル卿が結界を繕いながら話してくれたんだけどね、どうも敵の本性は魔王子らしいわよ」
「魔王子ぃ(''◇'')?」
初めて聞くけど、ゾゾっとした。みんなの顔が曇ったせいかも、わたしの中に――こいつはヤバイ――という直感が働いたせいかもしれない。
ロージーは、きれいな顔で、でも、ちょっと不敵な笑みを浮かべて続ける。
「うん、なんでも、魔王には王子と王女がいて、跡継ぎを巡って争っているらしいわ」
「そ、そうなんだ(^_^;)」
「くわせものとかの手下をいろいろ使っているから、真の敵が分からなかったけど、ヤクモが突き進んでくれたんで、ハッキリして来たみたいよ」
「そ、そうなんだ(;'∀')」
「でも、だいじょうぶ。ヒューゴがピッタリのタイミングを計ってくれて、メイソンがリーダーシップを発揮してくれたから、大丈夫、みんなで戦えるわよ」
「そ、そうなんだ('◎◇◎')」
「ちょっと、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶよ!」
『こういう時のヤクモはいちばんヤバイから』
「うるさい、御息所ッ!」
「わたしたち、ソフィー先生から近衛の剣を持たされてきたんだけど、ヤクモはだいじょうぶ?」
「うん、三つあるし!」
シャキーーン!
近衛の剣とミチビキ鉛筆と思い槍が光った。
ウワア!
みんなが感動の声を上げた……と思ったら、わたしの後ろの方に黒い雲が現われて、みんなが驚いていたよ!
えええ( ゚Д゚)!?
遅れた分、みんなの三倍も驚いて、ワチャワチャするヤクモだったよ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女